第35話「護る為に」

 琉聖の力で小型種の盾を突破し、三人は大型種に詰め寄った。

 状況的には挟み撃ちされている。

「雑魚は任せろ。お前の背中は俺が守る! 一対一でお前が外敵に負けることはない!!」 

 琉聖は、陽菜と大型種が対峙している場に、一匹たりとも小型種を近づけまいと炎を放つ。

(頭に赤い宝石みたいなものが……、あれがコア……? あれを撃てば……)

 陽菜は大型種の頭部に狙いを定め、光線を撃つ。

「なッ……!?」

 巨大さを除けば人型に近かった大型種の首が伸びた。そして、その首が曲がりくねって頭部を射線からずらす。

(かすりもしなかった……!?)

 大型種が陽菜を標的としたらしく、手足による攻撃が届く距離まで近づいてくる。

 強烈な蹴りをギリギリのところで避ける陽菜。

(くっ……、直接当たらなくても強い風で吹き飛ばされる……!)

 続けて拳を叩きつけられ、回避しても地面が震動し、姿勢を保つことも困難となっていく。

 大型種の放つ攻撃から逃げつつ、機を見て光を撃ち出すが、うまく狙いをつけられず全く決定打にならない。

「陽菜さん、後ろ!!」

 蓮の声を聞いて振り返る前に、背中に凄まじい衝撃を受けた。

 細部まで見ていなかった為、気付かずにいたが、尻尾らしきものも生えていて、それを地に這わせるように伸ばし、先端を陽菜の背後に回らせていたのだ。

 尻尾の先端に付いた鈍器のような塊に弾き飛ばされ、声を出す暇すらなく、市庁舎の壁に激突した。

(ぐっ……、身体が動かない……!?)

 壁に衝突した時に、四肢の骨が折れている。

 機能しているのは目と耳ぐらいで、最早、倒れたまま戦場を見ていることしかできない。

「陽菜さん!」

 蓮が陽菜の方へ走り出す。拡散された『治癒の水』では治せないと判断し、近づいて集中的に治療するつもりだろう。

 だが、今度は蓮が大型種に襲われる。

 尻尾の存在にも注意を払い、どうにか致命傷は免れているが、前方と後方から次々に仕掛けられる攻撃で、肌や肉を裂かれ鮮血が吹き出した。

(蓮さん!!)

 琉聖は、何としても小型種を陽菜たちに近づけない為に、脇を通り抜けた敵は振り返って全て倒している。

 そのせいで、背後からの攻撃を受けて傷だらけになっていた。

(先輩!!)

 倒れたまま動くこともできない陽菜の目に、守ると誓ったはずの二人が血の色に染まっていく光景が映る。

(動け、動け、動け!! こんなところで寝てる場合じゃない!! 二人を……二人を助けないと……!!)

 陽菜の願いも虚しく、身体中の骨が折れていては、立つことも這うこともできるはずがなかった。

 ――もう、できることは何もない。

(すみません……。やっぱり、わたしは人を不幸にすることしかできませんでした……。最期ぐらいは、怒ってください……。大好きな人が無理してわたしを赦すところは見たくありません……)

 最期の願いも叶わないと分かっている。二人は心配して言葉をかけてくる――そう思っていた。

「諦めんな! 陽菜! お前は今まで通り自分を信じなくてもいい、ただ俺たちの言葉を信じろ! !!」

 予想外の言葉。今の自分を見て、まだ戦えとは言わないと思っていた。

「陽菜さん……!!」

 血まみれになりながらも、必死に駆け寄ろうとする蓮。

 そこへ、大型種の腕が振り下ろされる。

 ――振り下ろした直後、その腕は弾き飛ばされた。

「陽菜……さん……?」

 蓮の前には、確かに陽菜が立っている。今まで光線として撃ち出していた光を四肢に纏って。

 大型種の腕は、陽菜が折れたままの腕で弾いた。

(この感じ……、骨は折れてる。普通に身体を動かそうとしても動かない。でも……壮力を使う為に精神を集中させると……動く)

 骨も神経も筋力も使わず、強制的に肉体を動かしている。

「それが壮力応用だ!」

 琉聖が声高に断言した。

「今のは奇跡じゃない。奇跡が起きたのは十五年前だ。お前が生まれた時に、奇跡はもう起こっていた! 窮地に陥ったからって都合よく奇跡は起こらない。だが、世界中のどこかでは、いずれ必ず偉業を成し遂げるような才能の持ち主も、奇跡的に生まれてる。お前が蓮を助けられることは必然だった。運命でも何でもない、単にお前が『才能』を持っていたからだ!」

「わたしの……才能……」

「どこぞの研究者はお前と違って可愛くも何ともないんだが、性別と才能だけはお前と共通してる。『異能学』のはこうも言ってたぜ!」

『必要な壮力応用は、数学の公式と同じく、才能さえあれば教わるまでもなく作り出せる』

「さあ、見せてやれ陽菜! お前力を!!」

 大型種が再び殴りかかってきた。陽菜はその鈍重な一撃を、いとも簡単にあしらう。

(……鈍い。攻撃のタイミングも方向も勢いも、全部見えてる。横から軽く押しただけであっさりと拳をそらせた)

 今度は背後から尻尾が襲いかかった。それも、背を向けたまま少し横に移動して空振りさせた。

(視線の端で尻尾を捉えてたら、普通に動きが読めた)

 異常なまでに目が強化されているように感じられる。

 骨が折れている身体を、纏った壮力で無理矢理動かしている為、痛みはあるがそれすらも心地よかった。

 ――今度こそ二人を守れる。

「壮力の成長は、最初に発現した力に対して本人が抱いているイメージによって変化する」

 琉聖は、おそらく『異能学』の知識と思われる、壮力の性質を話した。

「俺は炎の力を邪魔なものをまとめて焼き払える力として意識した。だから、広範囲への攻撃に適した能力になった」

「僕は――、水の力を見て、最初に連想したのが液状の薬……。麻酔じゃなくて、傷付いた人の苦しみを癒しながら、すぐ元気にもできるような、そんな薬を望んでた」

 蓮も自分の力を理解できてきたようだ。

 そして陽菜は――。

「すみません、先輩。あと少しだけ足止めをお願いできますか?」

「何秒いる?」

「余裕を持って……、十秒お願いします」

「OK!」

 琉聖の返事を聞いた刹那、陽菜の姿がそこから消えた。

(わたしは……、自分の光に何も思うことはなかった。希望の光だなんて思うはずがない。わたしが知ってるのは――、光が反射して目に入って物が見えていること……、それから、光速を超える速度がないこと……ぐらい)

 一瞬のうちに大型種の背後を取った陽菜は宙に浮いている。

 光線を上空に向けて撃てるように、纏った光を上方に移動させれば身体もついてくる。

 速力は、肉体を移動させているだけあって光速にはほど遠い。しかし、俊敏とは言い難い大型種の背後に回るには十分だった。

 陽菜は外敵大型種の姿を静かに見据える。実際にコアから周囲に何かが供給されていると分かる。

(確かに、不気味で大きくて力も強い。でも――、人間に比べたら怖くもなんともない……!!)

 陽菜はあくまで恐怖症。理性も持たない怪物など、恐れるに足りない。

(――確実に当てるなら頭部に接触しての零距離射撃)

 頭部へと接近していくと、大型種はその口から霧状の毒を吐いてきた。

(毒ぐらい、躱す必要もない)

 蓮と琉聖、二人から告白を受けた時とは比較にもならない、即断即決。人を想うが故の迷い・悩みは外敵を倒す上で障害にはならなかった。

 そのまま、毒霧を突っ切って、頭部のコアをつかむ。

(――撃ち抜け!)

 ありったけの力と想いを込めて、壮力の光を放った。

 眩い閃光に貫かれ、外敵のコアは粉々に砕け散る。それと同時に、大型種も小型種も、全ての外敵が塵となって消えた。

(やった……)

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