第34話「壮術者」
「さて、犠牲者は良くも悪くもかなり出てしまった。ケリをつけるぞ」
死者が出たことを『良くも悪くも』と表現せざるをえない世界に理不尽さを感じたが、迷いは晴れている。
「俺と違って守るべき家族がいる訳だし、蓮の家には炎の障壁を張っとくから安心してくれ」
「障壁?」
二人が首をかしげていると、琉聖は炎で膜のようなものを作り、家の周りにを張り巡らせた。
「超能力の応用って奴だな。本来は攻撃の力でも、防御に変化させることもできる。例のうさんくさい変態研究者が開発したもんだが」
陽菜が、思わず肩を震わせる。
「つい、変態の部分に反応してしまいました……」
「陽菜さんがどんな趣味でも、付き合うからね」
蓮は陽菜の腕にしっかり抱きついていた。
(た、戦いが終わったら、一刻も早くご両親に土下座して許しを請わないと……!)
琉聖は市庁舎の方を見やる。その先には、一体だけ存在していると聞いていた、二足歩行する大型の外敵。
「あのデカブツが親玉だ。奴が持つ巨体のどこかに、外敵としての心臓部――コアがあるはず。そいつが外敵全体に力を供給してる。破壊すれば、その他の雑魚も消えるだろう」
「まさか、先輩がここまで何もかもご存じだったとは……、出会った頃は想像もしませんでした」
「ほとんど『研究結果』として教えられたもんだけどな。そいつはよく言ってた、『実在する以上、超能力は得体の知れないものではなく科学で解明できるもの』『科学の力で発展させ続ければ、超能力で人間風情は皆殺しにできる』。最早、自分は人間じゃないような口振りだが、結局、奴が理論を組み上げた『異能学』とやらで、差別の原因になってた超能力も、今回襲撃してきた外敵も全部解明できてしまうみたいだ」
人間を皆殺し――あまりに残虐にも思えるが、その研究者もまた、能力者差別の被害者であろうことは容易に想像できる。
「俺は奴ほど非情に徹することもできず、かといって普通の人間と馴れ合うこともできず、中途半端だったんだ。力の意味を証明したあいつの方が、遥かに立派だろう。あいつは、研究に誇りをかけてて、仲間を死なせるようなことは絶対しないからな。――陽菜、愛してる」
そこまで貢献できたとは思えない。しかし、自分では相応しくないなどと言って、愛情を否定することはしない。
「その方は今……?」
「研究の規模を拡大するとか言って、差別を気にせずに済む場所を探しに海外へ行ったみたいだ。ぶっちゃけ、何を考えてるか分からん奴だったが、気が合う部分も一つだけあったんだよ」
「気が合う部分……、どんなところですか……?」
「『超能力』って呼び方はくどい!」
「え?」
思ったより、どうでもいい部分だった。
「第一『超能力者』にはもう、悪いイメージが定着してしまった。存在意義を解明した張本人も認める新たな名前がある」
琉聖に促され、三人で市庁舎に向かい始める。
「町を救って、宣言してやろうぜ。外敵を倒す力が持つ、真の名は『
わだかまりを捨てた琉聖が、勇ましく号令をかける。
「行くぜ!!」
市庁舎前。銃撃により防衛しているものの外敵は一体も倒せていない。
「俺が前衛を務めるから、陽菜は後方から射撃を、蓮は傷の治療――」
建物を殴って破壊し、地上も踏み荒らしている大型の外敵――大型種と呼称――に向かい、協力して戦おうとしたところ。
「何ッ!?」
まるで待ち伏せしていたかのように、三人が駆け付けたタイミングで、今まで以上の大群が続々と現れ、包囲された。
「伏兵!? そうか、壮術者以外を優先して襲うぐらいの知能はあるんだ。俺がぐだぐだしてる間に、外敵から見て脅威となる壮術者への罠を仕掛けてやがったか!」
無数の小型種がじりじりと詰め寄ってくる。
「ちッ! とにかく大型さえ倒せれば……!」
琉聖は、大型種の前を守っている小型種を焼き払うが、すぐさまそこを埋めるように新たな小型種が立ちはだかる。
「大型種のコアが破壊されると、小型種も消滅する――、一斉攻撃を仕掛けてこないのは、まとめて焼き払われて盾役がいなくならないようにする為!?」
蓮が予想する通り、大型種の前に固まっているものを除くと、小型種は周囲全体に散らばっており、範囲攻撃で一気に数を減らせないように立ち回っている。
そして、大型種の前が空いた時だけ、そこに集結し新たな盾となる。
「くそッ! 盾役のせいで大型に直接炎が届かねえッ! 上を撃っても飛び上がって遮る!」
「小型種を焼き払うと同時に大型種に接近すれば……」
「いや、小型の数が多すぎて、ほとんどそっちと戦ってるんだ。接近したら小型を攻撃してるところを大型にやられる!」
実際、琉聖は全方位から襲いかかってくる多数の小型種を倒す合間に、時々大型種に向かっても炎を放っている状況。
接近しても致命傷を与える前に、大型種から強烈な一撃を受けるだけだ。
もしも琉聖が大型種との戦闘に集中したら、その間に一点への射撃では到底倒せない数に襲われ陽菜も蓮も八つ裂きにされる。
(わたしが足を引っ張てる……。どこを狙っても大型種には届かないし……、周りの小型種は先輩が十体以上焼き払う中わたしが一体ぐらい倒してもほとんど変わらないし……。さっきは何を調子に乗って……)
蓮の家に向かってきた小型種とは数が違い過ぎる。
「そもそも、数が多い小型と、強力な大型、両方と同時には戦えない! 小型を全滅させないことには……」
全滅といっても、後何体残っているのか全く分からない。
蓮が周囲に降らせている『治癒の水』で傷は少しずつ治るものの、敵より味方の消耗が激しいのは明らか。持久戦で勝利できるとは思えない。
(先輩は外敵を倒してる、蓮さんはわたしたちの傷を治してくれてる、わたしだけが何の役にも立ってない……!!)
一人役に立っていない者がいる――そのせいで勝ち目のない持久戦となっている。
(わたしなんかじゃなくて、もっと立派な人がいれば良かったのに……。それなら蓮さんも先輩もちゃんと幸せに……)
申し訳程度に戦っていたその手すら休めてしまった。
そのことに気付いた蓮から声をかけられる。それが怒声であっても仕方ないところだが、蓮はこのような時に怒りはしない。
「もう、無理しないで。これからどうなるか分からないけど、陽菜さんが辛そうにしてるのは僕も辛い、――だって陽菜さんは僕の恋人だから」
陽菜が反応するより早く、琉聖も声をかける。
「そうだ、お前をこんなところで死なせはしない。俺の愛する陽菜が、たかが怪物ごときに殺されるなんてことはありえない」
戦意喪失の直前に、思い出した。
誓いを立てると同時に、意志が弱い自分の為、情けない自分を一途に愛する二人の為、保険をかけていたことを。
『その都度、恋人でいてくれることさえ確認させてもらえれば、必ず立ち直ります!!』
ただ単に『絶対幸せにする』などと言い切るには、自分は弱過ぎると知っていた。
(こんな状況でも、二人はわたしを恋人だと思ってくれてる……!!)
どんなに素晴らしい人物がいても、二人を守る役目はその人物のものではない。
(今、わたしが役に立ってないのになんとか持ちこたえてる。だったら――)
別人などいなくとも、自分が役に立てば事足りる。
「わ、わたしにあの大型種と戦わせてくれませんか……?」
大型種に攻撃が届かないのは、間に盾となる小型種がいるからだ。
接近すると危険なのは、挟撃されて大型種と小型種のどちらか一方に背後から攻撃される為だ。
「接近しても、わたしが一人で大型種を引き付ければ、わたしも先輩も片方に集中できるかと……」
そんな大役を任されるほどの人間だとは思っていない。しかし、今までもそうだったはずだ。
「意外に思うかもしれないけど……、僕は止めない。先輩だけじゃなくて、もちろん陽菜さんがどういう人かも分かってるから」
迷惑しかかけていなかった時より、傷を負って戦っている時の方が、辛い思いをしていなかったと気付いたのだろう。
「お前は自分の力を貧相だって言ったな。多分それでいいんだ。人は得てして、自分が誇示してるもんほど実際には持ってない。俺たちの中で一番強いのはお前だ!」
琉聖は二人を引き連れて小型種の盾を突破。大型種に詰め寄った。
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