第33話「蘇る誓い」

 琉聖の話を聞き終えた陽菜は――、琉聖を強引に押し倒した。

「なっ!?」

 驚愕する琉聖だったが、陽菜はさらに、抵抗できないよう身体を押さえつける。

「せ、先輩とご両親の仲が悪いんでしたら……、きょ、許可がなくても、いい……ですよね……?」

「陽菜!?」

 返事を聞くこともなく、シャツのボタンを外し琉聖の胸元をはだけさせた。

「おまっ……、何やって……」

 今まで、常に余裕の態度を崩さなかった琉聖が動揺している。

 陽菜はそのまま服の中に手を入れて、琉聖の筋肉質な胸元から、引き締まった腹筋までを執拗に撫でまわす。

 そして、鎖骨の辺りに口づけた後、貪るように舌を押し付けた。

「……くっ……! 今の……はな……し……」

 『今の話を聞いていながら何をやってる』と言いたいのだろうが、声が震えてまともな言葉にならない。あまりにも衝撃的な事態に、表情からは恐怖の色さえ見受けられる。

 先ほどの話を終えて脱力していたせいか抵抗しようと試みても、無理矢理覆い被さってきた陽菜をどかすこともできない。

 陽菜は、シャツの襟をつかんで肩を露出させ、なおも脱がせ続けた。

 ――本当に襲っている。

「……い、いくら恋人でも……合意もなしにこんなことしたら、犯罪ですよね……」

 延々琉聖の身体を弄り続けていた陽菜が、ようやく口を開く。

「……わたしは本当に自制心がなくて……。魅力的な異性が二人いれば二人共欲しくなって……、身体が触れ合えば欲情して……、人目もはばからず『興奮した』なんて口走って……、『襲われる』なんて聞いたら反射的に食いついて……。本来だったら人間は、もっと理性を持って行動するはずなのに……」

 自虐を始めつつも、身体を触る手は止めない。

「先輩はちゃんと、理性的に『人の命を軽んじるのは良くない』って考えてます。理性がなかったら、自分を見下す人なんてすぐに殺すはずですし……、人を見殺しにするからって自分の格が下だなんて思わないはず……。化物はそんな理性を持ってないはずです」

 陽菜は、自分から琉聖の顔を見つめて言う。

「悪に堕ちたから、そんな辛い気持ちに耐えないといけないって思ってる人が、本当に悪に堕ちている訳ありません……!」

「陽菜……」

「わたしこそ、生きていたら先輩と蓮さんが苦しむような人は死んでくれた方が嬉しいです。先輩のご両親が、どうしても自分の子供を愛せない人のままで、先輩を傷付けるなら死んでくれて構いません……!」

 こんなことを言っていいのかと思いながらも、自分にとって何より大事な相手は蓮と琉聖の二人であることを伝える陽菜。

 押し倒されたままの琉聖が安らかな表情を浮かべた。

「ありがとう、救われた……。でも元の関係にはもう戻れない……」

「え……」

「お前一人の問題じゃないだろ? 蓮のことをちゃんと幸せにしないと……」

 やはり琉聖は、身をひくべきという考えを変える気はないようだ。

「――日下先輩。お伝えしませんでしたか? と」

「……!?」

 蓮が静かに放った言葉に、琉聖は目を見開く。

「『外敵』や『異界』の存在は知りませんでしたけど、先輩が近いうちに終わってしまう幸せを噛みしめていたことは知っています。陽菜さんを愛する者として、陽菜さんの恋人である日下先輩を見ていましたから。普通の人間に対する感情に原因があるかもしれないと予想はしていましたが、きっかけになる出来事が起こった時、三人で話し合って、必ず本物の幸せにしようと心に決めていました」

「すげえな、お前。そういや入試で一位だったか。二位以下は一位より下と分かってるが、一位はどんだけすごいか未知だもんな」

「それに――、『外敵』による被害が拡大した後で、それを駆逐すれば、超能力者が社会に必要な存在として認められる。さらに生き残った者の割合を見れば、相対的に超能力者が多くなり、差別に対して有利になる。もし被害を未然に防いで『外敵』の脅威が知れ渡らなかったら、超能力者全体の境遇が改善されないままかもしれません」

 陽菜に襲われるかもしれない状況で恥じらっていた蓮とは別人のように、堂々と客観的な予測を述べる。

「先輩は元々『外敵』と戦うつもりだったんでしょう? たとえ陽菜さんと恋人でなくなっても、先ほどの好感が持てないという天才研究者と一応協力関係であったように、自分が冷酷だと思われていても、僕らに力を貸すつもりだったんじゃないですか?」

「はは、何もかもお見通しって訳か。最初は、そのつもりで声かけたんだよ。敵の敵なら共闘するには十分だからな。誤算だったのは陽菜があまりにも魅力的で完全に心を奪われてしまったことだ」

「陽菜さんと一緒にいて荒んだ心に愛情が生まれたなら、これから陽菜さんにもっと温かい心をもらえるはずです。もう一度誓いましょう、三人で幸せになると」

 蓮は毅然とした態度で、あの時の誓いを蘇らせた。

「ああ!」

 瞳に輝きを取り戻した琉聖は、陽菜の頭を撫でる。

「おーい、陽菜。いつまで舐めてる?」

「はっ……!? す、すみません……! 先輩と蓮さんの会話を聞いて、また恋人に戻れると思ったら感動して、もっと幸せを感じたいなと……!」

 陽菜は、話の流れからもう大丈夫だと察し、それ以降は琉聖の首筋を舐めることに夢中だった。

「た、単に先輩を引き留める為じゃなかったんだ……。そ、その、僕も心の準備しておくからっ……!」

 先ほどまで毅然とした態度を示していた蓮が、これから自分に襲われる心の準備をしてくれると考えたら、興奮を抑えきれない陽菜だった。

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