第27話「甘い時間」

 まず、遊園地とはどんなところかと、周囲を眺めながら歩き回っていく。

(やけにつばが……、口元気をつけないと)

 終始、二人とくっついている為、周りからは当然疑問の声が聞こえてきた。

「何あれ? イケメン二人の間に、地味な……女の子?」

「大金持ちのお嬢様かねー? いくら積んだんか知らんけど」

「あんなんお金で買えんの!? ちょっとあたし宝くじ買ってくるわ」

 気品があるという意味の『お嬢様』ではなく、嫌な金持ちのイメージだろう。

「わたし、あっちの可愛い感じの子がいいなー。守ってあげたいタイプ!」

「わー、背高い! あっちのワイルドな彼に乗り換えてもいい?」

「いや、無理やろ。おれで我慢しとけ」

 カップルで来て彼氏が傍にいるにも関わらず、蓮や琉聖に夢中になる女性多数。

 しかし、盲目的になっているからか、髪の色で二人が超能力者だと疑われてはいなかった。

 蓮には髪を染めるという選択肢もあったが、もしも染めていると知られれば超能力者であることを隠す為だと強く疑われる。通常の人間にありえないような色ではなかった為、あえて病気を理由にしたのだ。


「おっ、あんなんどうだ?」

 一通り回っていく途中、琉聖がちょうど良さそうなアトラクションを見つけ声を上げた。

 近づいて説明書きを読んでみる。

「オウガシューター。自動で走る乗り物から、備え付けのライフルでモンスター型の的を撃って点数を競う。あっ、これの元になったゲーム知ってます」

「初めて陽菜さんと出かけた時に僕の分まで買ってくれた――」

「あ……やっぱり蓮さんの為だけに二本セット買ったのバレてました……?」

 一応は専用の特典目当てという口実で買って、旧型も含めた二台の本体を使い、一緒に遊んだのだった。

「ううん、ただ、陽菜さんがそこまでするほど僕のこと好きだったらいいなぁって、そんな風に思ってただけ」

「じゃあ決まりだな。ちなみに俺も持ってるから、今度三人でやろうぜ」

 最初のアトラクションに乗り込む。

(ゲームの方で強かったモンスターは高得点か。小型は……動きが速い割に得点低いし狙わなくても。……? 速いっていっても、そんなにでもないか、ならこっちも撃っとけば。……! 蓮さんと先輩の肩が当たって……)

 的よりも、時々当たったり離れたりする蓮と琉聖の身体の方が気になって仕方ない陽菜だった。

 終点に着くと各人の総得点が表示される。

「おお! 陽菜、歴代最高得点じゃねえか!」

 その回に乗っていた人の点数とは別に、月間ランキングも表示されており、陽菜は二位にかなりの差をつけての一位だった。

「ほ、本当に、わたしの点数ですか!? わたし、蓮さんと先輩のことが気になって、あんまり集中できてなかったんですけど」

「それでもこの点数なんて、やっぱりすごいなぁ……。あれ……? 先輩の点数……」

 意外にも琉聖の点数が一番低い。

「俺は広範囲へ一気に攻撃するのが得意なんだよ。散弾銃ならもっと上狙えたはず」

「それ、誰でも高得点になりますよ!?」

「その点、陽菜は一発ずつの狙撃得意だもんな」

 琉聖は陽菜の肩を抱く。

「へえ、いつか僕にも見せてね」

 蓮も負けじと陽菜の手を握る。

(ああ、最高……! ずっとこの状態のままがいい……!)

 だんだん調子に乗り出した。

 二人を気にするあまり気付かなかったのかもしれない。的を一つたりとも撃ち損ねていないことに。

「何かコツとかあるのか?」

「えっと、みんな分かってることなのかもしれないですけど……、撃つとどこに当たったか光って見えるので、とにかく撃ち続けながら的に照準を合わせていけばいいかなと。弾数制限とかないですし」

「なるほど! 確かに的に向けたつもりでも全然違うとこ撃ってたりもしたけど、それなら常時銃口の向きが分かるな」

 ちょっとしたコツを見つけた気はしていたが妙に思う部分もある。

(指先から撃つのと、今のライフル使うのとは、かなり違ったような)

 そんな疑問も、蓮の声を聞いてどうでも良くなった。

「あっ、賞品もあるみたいだよ」

 高得点だと、ゲーム内にも出てきた装備品を模したストラップがもらえるらしい。ちなみに登場する武器は銃だけではなく、ストラップの種類も複数あった。今回の武器がライフルだったのは、オウガ系のモンスターが銃で倒しやすい敵だったからだ。

「ランキング一位とはすごいですね。一位の場合は特別に同時参加していた人数分賞品を差し上げることになっております」

 一人だけ賞品をもらうのも、片方にだけ譲るのも心苦しいと思っていただけに渡りに舟だった。

「よくやった陽菜。それじゃ、俺はこの剣の形した奴もらうか」

「ありがとう陽菜さん。あっ、アクセサリー型もあるんだ、じゃあ僕はこの指輪の形したので」

「喜んでいただけて光栄です。わたしはこの刀型で」

 それぞれの好みを反映しつつ、同じ作品のストラップをお揃いで持つ。

(わたし……、ずっとこういう生活に憧れてたのかも)


 その後も色々と見て回った。

 ジェットコースターで酔ったら、蓮にひざ枕で介抱してもらい、おばけ屋敷では、何も出ないうちから琉聖に抱きしめられ、フードコートでは自分の箸を使うまでもなく、二人が交互に料理を食べさせてくれる。人生で最も甘い時間を過ごした。

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