第七章
第26話「遊園地」
日曜日。とある遊園地の入場口前。
「この辺なら俺を知ってる奴もいないだろ」
新幹線に乗って三時間。琉聖が超能力者として知られている地元を離れ、関西の有名なテーマパークに来ていた。
(ほ、ほんとに、三人で来てしまった。まさかデートも二人と同時にできるとは……。ダブルデート――は違うか)
ダブルデートを嫌う人もいるが、もっと一般的なデートなのは間違いない。
いつもの癖で、カップルが多いことに居心地の悪さを感じそうになったが、今回は自分もデートなのだと思い出す。
「楽しみだね。陽菜さん」
「は、はい……! 早速デートさせていただけるとは」
「大げさだよ」
そう言いながらも蓮は本当に嬉しそうに微笑んでいる。
(う、うん、せっかくの好意を台無しにしない為にも、今日は楽しもう)
考えても仕方ないので、好かれている理由は『永遠の謎』として処理した。
「よし、二人共行こうぜ」
受付でチケットを買おうとしたところで早くも問題発生。
「このカップル割って、三人でも使えんの?」
料金表を指して琉聖が係員に質問する。
「いえ、男女お二人での適用なので、三人でという訳には……」
「要は恋人同士の場合を対象にしてんだろ? いいじゃねーか」
「規則なので私の一存では……」
係員は困り果てている様子。
琉聖がいったん戻ってくる。
「どうすっかなー。わざわざ高いチケット代払うのもシャクだし……」
「重ね重ね申し訳ありません……」
結局、世間で認められていない以上、都合の悪い事態は避けられない。
「僕が三人分払いましょうか?」
「いや、蓮の家が金持ちなのは知ってるけど、経済力の問題じゃないんだよ。お前にだけ払わせてたら対等の関係にならないだろ」
「あの……わたしがお二人の分も払うのが筋のような……」
所持金が足りない可能性もあるが、とりあえず言ってみる。
「俺と蓮だけじゃなくて、俺たちと陽菜も対等なんだから、全員自分の料金は自分で払うんだって」
「少しの差額ぐらい大丈夫なので先輩と陽菜さんの二人で」
「それこそ駄目だ! 俺だけが陽菜の恋人だって主張することになる。ここで譲ってもらうのは俺の矜持に反する」
良くいって中の上程度の女子一人を巡って、美男子二人が議論している奇妙な光景。
せめて今日ぐらいは卑屈に振舞うのを我慢しようと思っていたのだが、何もしないうちから決意が揺らぐ。
「よし、こうしよう」
何か閃いたらしい琉聖は、何故か蓮の肩を抱いて再び受付に向かう。
「あ、お客様……」
はっきりいって、めんどくさそうな声だ。
「俺ら二人がカップルってことでどうだ? 今時同性のカップルは認めないとは言わねえだろ?」
「せ、先輩……!?」
「……分かりました。そういうことで割引させていただきます……」
超能力者への風当たりが強くなっている一方、同性愛に対する差別をなくそうという動きは最近活発になっている。
(何かわたし蚊帳の外みたいだけど……、でも、これはこれで……!!)
新たな趣味に目覚めそうになりながら、ようやく入場。
運営会社の社長令嬢が、親に自分の趣味をごり押ししたとのことで、アニメやゲームとコラボしたアトラクションもいくつかある。ここが選ばれたのは、陽菜の趣味にデート場所を合わせた結果だ。
同じタイミングで入ってきたカップルの会話が聞こえてくる。
「前付き合ってた彼女はさ、初デートの時スカートじゃなくて、男心になんかがっかりしたんだよなー」
「じゃあさー、私のファッションはどう?」
「うん、可愛い。これでこそ女の子って感じやな」
それを見ていた琉聖がつぶやく。
「ああ、そうか関西弁か。さっきの係員は敬語だったから、あんまり意識しなかったけど」
周囲で喋っている人たちの口調に違和感があると思ったら、普段来る機会がない関西まで来ているのだった。
話し方とは別の部分を気にしていると、琉聖が続けて一言。
「言っとくけど、陽菜は今のままで十分可愛いからな」
先回りされた。
前日、さすがに正真正銘のデートなのだから、服装にも気を遣うべきだろうと考えはしたのだが、下手に勘違いしたような格好でぎくしゃくするはめになるのが怖くて、結局普段着のまま来てしまっている。
せめてスカートを穿くべきかと思案したものの、わざわざ制服までスラックスを選んだぐらい抵抗があるので、諦めてしまった。
女性らしさに自信がない分、女性らしく見せかけようとしていると思われるのが、無性に恥ずかしい。
「お二人とデートできるだけで、もう十分過ぎるほど嬉しいので、この際わたしの外見のことは大丈夫です」
「可愛いのに……」
精一杯ポジティブな発言をしたつもりだったが、蓮は残念そうにしている。
「陽菜がどうであるにせよ、そもそも『女らしい』と『女性として魅力的』は違わね?」
「――!?」
陽菜の固定観念を覆すような琉聖の言葉。
「ひょっとしたら蓮も似たようなこと考えてなかったか? 『男らしい』タイプじゃないから自分はかっこよくないとか」
「それは……まあ」
「蓮は中性的な感じの美形だから、俺の方が男っぽくはあるだろ。でも、見た目に関して俺は蓮の足下にも及ばん。なあ、陽菜」
「あ……いや……、お二人共物凄くお美しくて、わたしごときが評価を下すことはとても……!」
タイプが違うのは分かるが、優劣はつけられない。
「蓮さんも先輩もお二人共……だ、大好きです……!」
よく考えると、自分からは好きだと言っていなかったことを思い出した。
「おお、やっと陽菜の口から好きだって聞けたな」
「す、すみません……! 畏れ多くもお二人の方から告白させてしまって……!」
「それはいいけど、俺が言いたいのは中性的な魅力ってのがあるってことだ。余計なことまでペチャクチャ喋るのも女らしいといえるし、寡黙で静かなのが男っぽいともいえる。大和撫子が必ずしも女性的とは思ってない」
「あ……、そこまで、わたしに都合のいい理屈を作ってくださっ――」
「よし、遊ぶぞ」
あっさりとぶり返した陽菜の自虐をスルーしてデート開始。
「とはいえ……、遊園地って何して遊ぶんだ?」
「僕もあまり来ないので……」
「わたしは物心ついてから来た記憶がありません……」
三人揃って馴染みのない場所だった。
「まあ、適当に回るか。一番の目的は陽菜とイチャつくことだし」
そう言うと琉聖は腕同士を強く絡めてくる。
「あ……僕もいいかな……」
蓮も手をつなぎつつ、そっと腕に寄り添ってきた。
(こ、この状況は……!! りょ……両手に花……!? 二人に申し訳ないはずなのに……これは……しょ、正直たまらない……!!)
かつては手が届くはずもないと思っていた異性二人と両腕が密着した状態で、遊園地内の散策が始まる。
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