第20話「休息」

 三人で差別的な社会と戦っていこうということで話はまとまった。

「それより陽菜、傷は治ったっていっても疲れてるだろ。ベッド借りて一眠りしてきたらどうだ?」

「あ……来客用のベッドがあるんですか?」

「ううん、ないけど……」

 すまなさそうにする蓮。何故、琉聖はあると思ったのか疑問だ。

「ベッドか布団か分からんが、蓮のがあるだろ? いいよな蓮?」

「……! は、はい。構いませんけど……」

 一瞬、戸惑ったようだが、あっさりと了承した。

「決まりだな。俺は蓮と二人で話すことがあるし、ゆっくり休んでてくれ」

「ええ……!? あ、あの、そういう訳には……」

 いきなり自宅に上がっただけでも緊張しているのに、ましてや自室――それもベッドの中まで入るのはハードルが高すぎる。

「あー、やっぱり女子は男子と同じベッドには入りたくないか」

 やたらと残念そうな顔だ。自分のベッドを嫌がられたのではないのに。

「それは、まあそうかと……」

 蓮も若干落ち込み気味だが、常識で考えればそうだろうと納得している様子。

「い、いえ……! わたしが嫌ということではなくて、雨宮さんに失礼というか……!」

「話聞いてたか? 蓮はいいって言ってるだろ。俺は蓮に話があるんだよ。さあ、行った行った」

 琉聖は、陽菜の反応を予想していたかのように、背中を押して蓮の部屋まで直行させる。


 蓮の部屋は、綺麗に整理整頓されており、本人同様の気品が漂っていた。

「あの……、本当にいいんでしょうか……?」

 蓮のベッドを前に再確認。なんとなく背徳感がある。

「水無月さんさえ嫌じゃなければ……」

 間接キスの時と同じ状況だ。ここはありがたく、好意を受け取るほかない。

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

「そもそも、蓮ぐらいの美形なら嫌ってことはないだろ」

「……え?」

 蓮は琉聖の言葉を聞いて、驚いたように目を見開く。

(も、もしかして、自覚ない……!?)

 いくらなんでも、鏡を見れば一発で分かるだろうにと思ったが、自分のことだと見え方が違ってくるのかもしれない。

「なんだよ? お前が美形じゃなかったら、俺はどうなるんだよ」

 琉聖は、釈然としないようだ。

(先輩も十分かっこいいんですけど……!?)

 二人揃って無自覚ということのようだった。

「でも僕、全然恋愛経験とかないですし……」

「付き合ってないだけで、片想いしてる女が大量にいるんだよ。さっき――。いや、何でもない」

 『さっき、陽菜を襲った相手も、お前の熱狂的なファンだぞ』と言いかけたのだと察しがついた。もし言っていれば、蓮は、自分のせいだと思い傷付いたことだろう。

「とにかく、陽菜はしっかり寝とけよ」

 琉聖と蓮は部屋を出ていく。ベッドに入る瞬間を見られずに済むのは助かった。

(いつも雨宮さんが寝てるベッド……。雨宮さんの匂い……)

 横になっても、目が冴えて眠れない。仕方ないので、せめて別のことを考えて煩悩を追い払うことにする。

(そういえば……、先輩は雨宮さんと何の話をしてるんだろう?)


「おお、陽菜。ちゃんと眠れたか?」

「は、はい。それはもう……」

 なんとか眠りについて、少ししたら目が覚めたので、居間に戻ってきた。

(別に、嘘ってほどじゃないよね……?)

 まさか、興奮してほとんど寝られていないなどと言えるはずもなく、『ちゃんと』の定義を甘くしている。

「それじゃ、帰るか。帰り道は――分からないんだよな?」

「恥ずかしながら……」

 蓮の家には初めて来たので、必ずしも帰り方が分からなければおかしいというほどでもないが、どのみち極度の方向音痴であることは自覚していた。

「よし、送っていこう」

「あ、ありがとうございます」

「おーい、蓮。そろそろ、帰るぞ」

「あ、はい」

 蓮は、居間のソファに座っていたようだが、琉聖より遅れてやってきた。その頬がやけに紅潮して見える。

「あ、あの……、水無月さん……またね」

 モジモジしているように見えなくもない。

(やっぱり、自分のベッドで異性が寝るのは、恥ずかしかったのかな……)

 玄関に向かって歩いていると、名残り惜しいという感情が湧いてくる。

「あ、あの……、もし、何か機会があったら……、また来てもいいでしょうか……?」

 門の外まで見送りに来ている蓮に尋ねてみた。

「う、うん。そうなったら……いいな」

 どこかそわそわしたような態度で返答する。

 許しは出たが、本人の意思とは別に、そうならない可能性があるような口振りだ。

(や、やっぱり、ご両親が反対するのかな……? 特にお母さんは、変な女に付きまとわれてる、みたいに思うかも……)

 蓮のような息子がいれば、いやでも過保護になってしまう親が多いであろうことは、高校生ながらに察しがつく。家族だけが、超能力のことを知っているなら、なおさら。


 家まで送ってもらう間、事件があったばかりで警戒しているからか、琉聖がかなりくっついてきて、自分は逆に警戒できなかった。

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