第13話「秘密」
お互いのことが分かったので今日のところはこれで十分、と表に出てくる陽菜と琉聖。
「あの……、できればわたしの力のことは秘密に……」
「言う訳ないだろ。『二人だけの秘密』ってやつだな」
「ふ、二人だけの……」
言葉の響きに、ついどぎまぎしてしまう。深い意味はないと思いつつも、いちいち反応するのは蓮の時と同様。相当飢えているのかもしれない。
「俺の場合は能力が発現して、周りに避けられたり、けなされたり、とにかくろくなことがなかったなかったが、それでも自分の中に生まれたこの力を否定したくなかった」
琉聖は、そっと目を伏せて、超能力と共に生きてきた身の上を語った。
まっとうにやっていても不良からは喧嘩をふっかけられ、善良なはずの一般人からは犯罪者のように扱われ、人の輪の中に居場所はなかったという。
「他人がどう言おうと、俺はこの力を誇りにしたいと思ってる。後悔はない、いつか力を活かせる時は来るって信じてるからな」
そのように話す琉聖の表情には、確固たる意志が宿っているように見えた。
彼の強い面持ちに見入っていると、先ほどまでとは打って変わったように、冗談めかして言う。
「でも、恋人ができないのは残念だったなぁ……。一緒にいてくれる彼女とかいたら、もっと気が安らいだろうに……」
もし恋人がいたら――、陽菜としても、それを考えることは少なくなかった。
(もし、もしも、わたしでも、いないよりはマシだとしたら……。なりたいって言えば――)
不純な思いが浮かんできたものの、すぐ思い直す。
他の人から避けられているという弱みにつけこむのは、あまりに卑怯だと感じられた。そして何より、琉聖自身は超能力を活かせる機会がいずれ訪れると信じているのだ。その時が来た場合、相手はいくらでもいる。
琉聖の信じる未来を否定することなどあってはならない。
そのように考えていたら、何も言葉を返せないまま下山し始めることに。
降りるのは楽なので、歩きながら閑談に興じる余裕もあった。もっとも、話題は全て琉聖が提供してくれて、それに応じて受け答えをしているだけである。ただ、興味深いことに彼もゲーム好きだということが判明した。
「ゲームは一人で遊べるし、オンラインでも超能力者かどうかは関係ないしな」
オンラインゲーム――インターネット通信を利用して多人数で遊べるゲーム――について陽菜は詳しくない。インターネットごしとはいえ、その先に生身の人間がいることを思うと緊張してしまい、楽しんで遊ぶどころではないのだ。反面、一人で遊べるものは、一本のソフトを複数回クリアするほどのめり込むことがある。
共通の趣味があったことで、案外盛り上がった。
帰りはやけに早く着いたように感じた。
(話が合ったのは良かったけど、何かこう……女の子らしい趣味があったら、もっと良かったのかな……)
そもそも女性らしい感性が自分にあると思えないので、半ば諦めの境地で苦笑する。
今回も、家の前まで送り届けてもらった。これからは時々、人目につかない場所で超能力を扱う修行をやってみるという約束もして、琉聖を見送る。
なんだかんだいって高校に入ってからは、蓮と琉聖、二人の男子生徒との交流が生まれ、中学までとは明らかに違う充足感を得ていた。さしあたっての問題は、二人のどちらかだけにでも愛想を尽かされたら、その時点でショックに耐えられず、立ち直れなくなりそうなほどに陽菜のメンタルは弱いということだ。
高校入学からしばらくは、こうして、蓮とは昼食や外出、琉聖とは超能力の修行を共にしながら過ぎていった。
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