第11話「道案内」
(う~ん、ここはさっき来たような来てないような……。なんかもう地図見てもよく分からない……)
地図アプリを開いたスマートフォンの画面をにらみつける。周辺地域が表示され、現在地もGPSで分かるには分かっているのだが、それでも家への帰り方が分からない。
図書館前で蓮と別れてから随分経ち、かなり歩き回ったのだが、完全に迷っていた。
館内で一休みして少しは体力が戻っていたとはいえ、とうとう疲れ切って道端でしゃがみ込んでしまう。
(わたしの方向音痴どうにかならないのかな……)
内心自分に呆れ、途方に暮れていたところ、背後から思わぬ相手の声が聞こえた。
「どうした陽菜? そんなとこで」
「え?」
驚いて振り返ると、私服姿の琉聖の姿があった。
「せ、先輩!?」
「図書館から出てきたのは結構前なのに、未だにグルグルしてるから何やってんのかなと」
琉聖の話では、店員が自身の超能力を知らないか、あるいは超能力者でも関係なく利用できそうな飲食店を探していたところ、一度陽菜を見かけ、食事を済ませた後再び外に出ると、まだ周辺をウロウロしていたから話しかけたとのこと。
「じ、実は、道に迷ってしまって……」
「おー、そうだったのか。でも今時スマホで地図見られるだろ?」
「情けないことに、見ても分からなくて……」
「住所は分かるよな? 良かったら送ってくぜ」
「えっ!?」
思いがけない言葉に面食らう。
「い、いいんですか?」
「むしろ、お前が家に帰れなかったら良くないだろ?」
蓮に対してもそうだが、もちろん琉聖にも迷惑をかけるようなことはしたくない。しかし、最早自力での帰宅は不可能だと悟っている為、謝りながらも自宅住所を検索して出てきた画面を見せた。
(最近会ったばかりの人に自宅への案内を頼むわたしって……)
いいかげん醜態をさらすことに慣れてしまうのではないかと危惧し始める。
「そういやー、一緒にいたのって彼氏か?」
家路の途中で、琉聖がとんでもないことを訊いてきた。
「え? ……ええっ!?」
考えてみれば図書館を出た時に見かけたということは、蓮も一緒にいる時ということだ。
「い、いえ……! わたしなんかが雨宮さんとお付き合いなんてできる訳が……! そもそも全然釣り合わないですし……!」
「そうかぁ? 二人だったしデートだろ? 俺だったら好きでもない女とデートなんかしないぞ」
「えっと、諸般の事情でお互い他に呼べる友達がいなくて……。あっ! 雨宮さんの方は本人のせいじゃなくて、わたしとは違うんですけど」
せっかく、デートかもしれないなどという考えは必死に抑え込んだにも関わらず、人にまで言われると余計な期待感が再燃してしまう。初めから期待などしなければ、裏切られ落胆することもないというのに。
そうして会話をしていると、存外すぐ自宅前に着いた。さして遠くにいた訳ではなかったらしい。こんな距離のところでさまよっていたとは。
「お、お手数おかけしました。本当に……」
「気にすんなって」
下げていた頭を上げてみると、琉聖は陽菜の家をじっと眺めている。
「陽菜はここに住んでるんだよな?」
「は、はい」
家を見ていたかと思えば、至極当然のことを尋ねられた。
「既に一飯の恩があるしな、どうせなら一宿一飯にしてくれりゃ礼にも色付けるぞ」
「……!! え……、い、一宿って……」
琉聖はさらりと言ったが、『一宿』を言葉通りに解釈すると、いよいよ大変なことだと、取り乱してしまう。
「ああ、あの……、ち、散らかってますし……! 何のおもてなしもできないですし……! もうすぐ両親が帰って……、そ、それで、その……!」
あまりの錯乱ぶりを見かねてか、フォローを入れてくる。
「わ、悪かった、落ち着け。冗談だ冗談」
(……じょ、冗談!?)
単なる冗談に対して、今の反応をしてしまったとあって、顔から火が出る思いだ。
「す、すみません……! 会話に慣れてないあまり冗談も分からなくて、早とちりを……!」
「いや、今のは俺が悪かった。ここらで退散するわ」
さすがに気まずくなったのか、立ち去ろうとする琉聖。そのまま行かせたのでは気が咎める。
「あ、あの、先輩のお話にもついていけるよう努力しますので、どうか今後とも……」
今の発言で何か心に響くものがあったのかは分からないが、琉聖は去り際に――超能力を恐れている者にはまず見せないであろう――にこやかな表情を見せた。
「ああ! これからもよろしくな!」
その夜。
疲れた身体を休めるべく、さっさと入浴を済ませてベッドに入りつつ、借りてきた本に手を伸ばす。
(どうせなら、実際に雨宮さんが読んでたっていう方を……)
読み始めてみたのだが――、思うように話が入ってこない。
せっかく蓮に紹介してもらったのだからと、頭では考えるものの、作品自体は蓮と特に関係ないせいか、はっきりいって興味が持てなかった。
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