第8章 双子、世界の危機に立ち向かう

プロローグ 終末の予感


 いつもなら明るい子どもたちの笑い声が響き、んだ青空が広がる、そんな学校の校庭に、ぞろぞろと人が集まってきていた。みんな誰もが不安そうな顔をして、時折恐怖のあまり泣き出す声も響いた。空は夕闇のように薄暗く、何か不吉なものが空を覆っているように見えた。

 いくら冬が近づいている時期とはいえ、時刻はまだ午前中。明らかに空の様子はおかしかった。空だけではない。町も、いや、この世界も、いつもと様子を変えていた。

「一体何だって急に……」

「でも、大地の力がおとろえているのは、最近の話題になっていたじゃない?」

「不吉な前触まえぶれだったんだな……」

「ねぇ、あの魔物は? いついなくなるの?」

「わからない……」

 校庭に集まった町の人は、誰しもがそう不安を口にしていた。

 そんな町の人達の前に、チョビひげの偉そうな男が現れた。警備隊の緑色の制服にたくさんのメダルをつけ、赤い立派なマント、見るからに偉そうな人だ。彼は大声で声をかけた。

「みなさん、ご心配には及びません! ただ今、我々警備隊が町の魔物を蹴散けちらしているところです! 今はこの学校に避難ひなんしていただいていますが、そのうち町には戻れるようになります! ご心配なく!」

 そう説明するのは、この街の警備隊の隊長だ。しかし、そんな隊長の説明では、町の人々の不安はぬぐえなかった。

「一体どうして魔物が現れたんだ!?」

「町の結界は……守りはどうなっていたのよ!」

「いつだ、いつ戻れるんだ!?」

「食料はどうしたらいいの?」

 次々に質問を投げかける町の人に、警備隊隊長はなだめるような仕草をした。

「お静かに! 現在状況を調べております。まずはみなさんの安全確保が最優先です。学校の講道館と体育館を開放してもらっています。そこならば、結界もあり安心です! まずはみなさん、そちらに移動してください!」

 警備隊が案内を始めると、町の人は不安を抑えながらそれに従っていった。

「全く……一体何だって急にこんなことに……」

 町の人達が移動を開始すると、ひとり言のように隊長はつぶやいた。ああは言っても、なぜこんなことが起こったのか、警備隊の隊長も知らないのだ。

「最近、大地の気の乱れがひどいと聞いていたが、町の魔物が現れるだと? 結界だって切れたわけではない。町の外から魔物が入れるはずがないのに、どうしたっていうんだ?」

 そんな隊長に、次の不幸な知らせが飛び込んできた。一人の隊員が、隊長に近づき、そっと耳打ちした。

「隊長、大変です。隊員のうち、魔導剣士が全員倒れました」

「なんだと!?」

 その報告に、隊長は驚きを隠せなかった。

「魔導剣士が全員だと!? 我が警備隊の一等兵ではないか! どういうことだ?」

「わかりません、ですがリン隊員だけ意識が戻りまして……」

 その名前に隊長のまゆがピクリと動いた。実力はあるが、あまり隊長とはりが合わず、少々嫌っている隊員だったからだ。しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。隊長は耳をかたむけた。

「恐らく、陽の力が相当落ちていると……まるで力を封印されているときと同じだ、と言っていました」

「封印だと……? 一体どうして……」

「わかりません」

 不気味な報告に思わず隊長は口をつぐんだ。しかし止まっている暇はない。

「……動けるやつだけで構わん。町の魔物を一掃いっそうするんだ」

「了解しました」

 隊長の命令に隊員は走って離れていった。

 嫌な予感がした。何か大きな力が、彼らの知らないところで働いていて、この世界を悪い方向に持っていくような、そんな漠然ばくぜんとした不安に襲われた。

 しかし、隊長はすぐに首を振った。

「フン……。突然の災難に少々気味が悪いだけだ。我が警備隊の力があれば、あんな魔物、すぐに蹴散らしてくれる」

 そう意気込む隊長の頭上では、黒い雲が不気味に渦巻いていた。




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