第15話 解決策へ


「後一つだべか⁉」

「それって本当なの、校長先生⁉」

 思わず声が大きくなる双子に、校長は落ち着いた様子でうなずいてみせる。

「北方大陸に守護役と繋がりのある男がいてな……。先日まで彼に会っておったのじゃよ。彼から最近入った情報では、今一つが沈みかけておるのじゃ。よりによって、光の光の石という、一番光の力を大きく支配する石がのう……。そして残るは、光の風の石だけが沈まずに残っておるそうじゃ」

「じゃあ、急がないと! はやく僕らの持つ水の石も沈めなきゃ!」

 校長の言葉に、シンジが焦るようにシンに話すその向かい側で、ガイは首をかしげて校長先生に質問を投げかけていた

「これって、闇の石を封印しないままだと、どうなっちゃうんですか〜?」

「もちろん、連鎖反応が止まらずに、光の石を引きずり続けるまでじゃ」

「なるほどな、じゃあやっぱりその連鎖反応を止めるためには、沈んだ光の石と同じ数だけの闇の石を封印する必要があるってわけか」

 校長の言葉にキショウがうなずきながら続けると、校長は深くうなずいてみせた。

「とはいえ、校長先生……。闇の石を沈めるのだとしたら、一体どうすれば……?」

 レイロウ先生が口をはさむと、シンとシンジが先生に向き直った。

「多分、ペルソナ達に会うのが一番早いんじゃないかな」

「ペルソナが石を沈めていたのは間違いないべ。あいつら気に入らねえだべが、今はそんなこと言っていられないだべさ」

 珍しく、いら立ち気味にそう答えるシンに、ヨウサも顔を曇らせる。

「本当にペルソナが世界の危機を知って動いていたのか、少し不安だけど……でも、闇の石の沈め方はあいつらじゃないとわからないものね……」

 その言葉にキショウが腕組みして答えた。

「一応本には書いてあったがな、文献で知るのと実際にやるのとはわけが違う。奴らが本当に光の石のことを知って闇の石を沈めていたのか、確認も合わせてあいつらに会うのが一番早いだろうな」

 その言葉に校長がうなずいた。

「そうとわかれば、決まりじゃな。早いところペルソナ達に会って詳しく話を聞いてみた方がいいじゃろう。その闇の石の本があれば、簡単に奴らを探せるのじゃろう?」

 その言葉に、シンジがうなずいてみせた。そしてカバンから例の本――そう、あの闇の石が埋め込まれている闇の石の地図の本だ――を引っ張り出すと、シンも一緒になってそれを開いた。

「今はオラの持っていた、あの風の闇の石を探せば早いだ。あれをペルソナが奪っていったべからな」

 その話は初耳のヨウサが、驚いてシンを見た。それはそうだ。寮生でないヨウサが昨夜のゴタゴタを知るはずがない。目を白黒させてヨウサが声を大きくする。

「え、奪われた⁉ いつの間に⁉」

「それが昨日は大変だったんだよ〜。まずフタバくんがペルソナで、闇の石を奪われて校長先生も現れて〜。で、今朝になったらキショウは先生に捕まるし〜」

 驚くヨウサに、ガイがかい摘んで説明するも、言葉足らずでますますヨウサは頭を抱える。

「ええ? なんだか言っている意味がよくわからないんだけど……」

 そんな二人をさておき、双子が本の魔法を起動させる。それを見てキショウもふわふわと宙に舞い、いつものようにシンの頭の上に乗ると、操作法を指示し始めた。 「闇の石を手に入れたなら、きっと奴らはそれを沈める場所を探し始めるはずだ」

「闇の石の神殿みたいな場所だね」

「そうなると、この辺を探してもダメだべな?」

「ああ、調べる範囲を広げてみるんだ」

 そんなやり取りをシン達が始める頃、その様子を、ただあんぐりと口を開けて見守るだけだった先生が、ようやく我に返った。今までずっと話がわからず、蚊帳かやの外だったハセワ先生だ。彼らの動きと話が止まったことに気がついて、ようやくハセワ先生は口を開いた。

「い、一体何の話をしているんですか……。ペルソナがどうとか闇の何かがどうとか……」

 その問いかけに、隣に立っていたレイロウ先生も困ったように苦笑してほおをかいた。

「話すと長いんですが……まあ簡単にいえば、世界の危機を救うため、シン達は動き回っていたんですよ」

 突拍子とっぴょうしもない説明に、ハセワ先生は何度も目をまばたきさせる。

「世界の危機って……そんなお遊びじゃあるまいし……本気で先生言ってるんですか?」

 混乱している先生に、校長先生もヒゲをなでなで説明する。

「お遊びでした、で終われば平和的だがのう。残念ながらそんな楽観的な状況ではないのじゃよ」

「そ、それよりも校長先生……。こいつらの処罰はどうするんです? それにこの闇族だって放っては置けないでしょうし、その処置も考えなくては……」

 まだ彼らの処罰にこだわるハセワ先生に、校長先生が珍しく厳しい視線を向けた。

「何度も言うようじゃが、今はそんな場合では無い。場合によっては、彼らの行動は違反どころか勇気ある行動として、賞賛されるべきものかもしれんのじゃよ?」

 全く予想していなかった言葉に、さすがのハセワ先生も返す言葉がない。

「出ただ!」

 しばらく本を操作していた双子と小鬼だったが、唐突とうとつにシンが叫び声をあげた。その言葉にヨウサもガイも、レイロウ先生も校長先生までも彼らに近寄り、本をのぞき込んだ。

 見ればいつものように本の中心に描かれた魔法陣が光り輝き、どこかの地図を表していた。そしてその魔法陣の周りに描かれた黄色の闇の石は微かな光を放ち、本の右端を指すように輝いていた。

「初めてみるのう。こうやって反応が出るとは興味深い……」

 初めて本が動いたところを見る、校長先生とレイロウ先生が目を丸くしていると、キショウは本の上に乗り、指差しながら説明を始めた。

「地図でいうと、今オレたちのいるセイランの町はこの辺りだ。相当遠くになるんだが、この山脈にはさまれたこの土地はなんて場所だ?」

 そう小鬼が問いかけると、校長はヒゲをなでながら、うなるように答えた。

「うーむ、確かハイジュカイの谷じゃな。中央大陸では珍しく荒れ果てた荒野じゃが……そんな場所に神殿があるのかのう?」

「闇の石の神殿は、大抵埋もれていたり地下にあったりするから、表面の地形は関係ないんですよ〜」

 校長の疑問にガイが答えると、レイロウ先生がまた違った問題に首をひねる。

「しかし、こんな場所ではそう簡単には行けないぞ。おそらく汽車も通っていないところだろう。行くまでに時間がかかるぞ」

「じゃあすぐに出発しなきゃ!」

 その言葉にシンジが意気込むと、思いがけず校長がそれを制した。

「それには心配及ばん。具体的な場所がわかれば、転送魔法を開いてやろう」

 校長先生の言葉に四人は目を輝かせた。

「じっちゃん、転送魔法使えるんだべか!」

「ペルソナ達が使ってるのを見たことあるだけだったけど、やってみたい!」

「さすが校長先生!」

「じゃあ僕たち四人でいけるね〜!」

と、四人が騒ぎ出すのだが――

「待てよ。必ずしもそこにペルソナがいるとは限らねーぞ」

 盛り上がる四人を、今度はキショウが制する。

「あくまで石を持って行ったのはペルソナだが、あいつは闇の石の神殿を探していた。恐らくアイツは、闇の石を沈めることができる場所を優先的に探している……。今反応が出た場所が、まだ見つけていない闇の石の神殿って可能性もあるが、こないだ行った大地の神殿の地下だってアイツが行っている可能性はあるぜ」

 キショウの鋭い指摘を、真っ先に理解したのはシンジだ。

「そっか、石を持っているのが必ずしもペルソナとは限らないのか。他のデルタとか、部下達が神殿に向かっている可能性もあるんだね……」

 キショウの説明にシンジがあごを押さえると、ガイも思い出したように声を出す。

「そういえば、あの部下達三人って常にペルソナと行動をともにしているわけではないもんねぇ〜。オミクロンとデルタだけで石探ししてた時もあるわけだし〜」

「真実の確認には、ペルソナと直接話した方が早いだろう。別に戦うわけでもねーんだし、手分けしてみてもいいんじゃねぇか」

 その提案にレイロウ先生はまゆを寄せ、不安な表情を浮かべた。

「そんな……今まで何度か敵対していた相手だろう? せめて警備隊や学校の先生もついて行った方がいいんじゃないか? お前達だけで行かせるなんて、正直私は反対だ」

 その言葉に、校長先生は軽く二度ほどうなずいて言った。

「それなら、ワシも一緒に行こうかの。ワシなら万が一、戦うことになっても心配はいらんじゃろう?」

 その言葉にシンが跳びはねた。

「じっちゃん! 一緒に行ってくれるだか!」

「校長先生が一緒なら頼もしいや!」

 と、双子が喜んだその時だった。

 突然けたたましく校長室の扉が叩かれ、勢いよく扉が開かれた。突然の大きな音に部屋の全員が振り向いた。するとそこには息を切らした若い男の先生が立っていた。灰色のふわふわした短い毛に大きな黒い瞳、鳥種族の血を強く引く飛行術担当の先生だ。先生の緊迫感あるその表情から、ただ事でないことが起こっているのがわかった。

「な、なんだ急に……校長室だぞ、騒がしく入ってくるとは……」

 思わずハセワ先生が注意すると、鳥先生はその言葉も耳に入っていない様子で叫ぶように言った。

「大変なんです! ま、町に魔物が出たと……!」


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