第14話 覆される真実
「光の石が……北方大陸にあったんだべか!」
驚いて口をあんぐり開けているシンの隣で、ガイが納得いったようにうなずいていた。
「どうりで光の石が見つからないわけだ〜。全然場所が違うんだもん〜」
ここに来て、ようやく光の石の在り処が分かり、四人はびっくりしていた。今まで闇の石の話は出ても、一度だって光の石の話は出てこなかったのだから。
しかし、まだ謎は残る。さっそくシンジが問いかけた。
「でも校長先生、その光の石が闇の石と、どう関係するんですか?」
問いかけに校長先生はうむ、とうなずいてまた話を続けた。
「約一年前のことかのう。その光の石を奪う奇妙な盗賊が現れたのじゃ」
その言葉にシン達全員があっと声をあげた。
「ペルソナだべか⁉」
この中央大陸で闇の石を盗んでいるのはペルソナだ。光の石を盗み出す、と言われれば当然彼らの頭に浮かんだ人物はそれしかなかった。
しかし、校長は首を振った。
「ペルソナではない。謎の二人組と聞いておったよ。正体はワシらにはよう分からぬ。その謎の盗賊に北方大陸にある光の石全てを奪われた。じゃが守護役は無事、それらを探し出したそうじゃ。光の大地の石以外はのう」
その言葉にヨウサは首をかしげながら尋ねた。
「光の大地の石以外は……? じゃあ光の大地の石はどうなったんですか? どうしてそれだけ取り返せなかったのかしら?」
その問いかけに、校長はため息を一つはさんで答えた。
「守護役が言うにはのう、それは事故により『大地に沈んだ』のだそうじゃ」
思わず四人は顔を見合わせた。
「大地に沈むって……闇の石と一緒じゃないか……!」
「光の石も闇の石と同じような危険な状態になっていたってことだべか⁉」
「いや……」
彼らの会話を
「光の石が沈んだのはもう今から一年くらい前なんだろ? なんだか妙だな……」
「妙?」
シンジが小鬼の方を向くと、小さな顔を彼に向け、見上げるようにキショウは言った。
「もし一年も前に沈んだのだとしたら、どうして沈んだその時……一年前に異変が起こらなかったんだ? オレ達はてっきり闇の大地の石が沈んだから、大地の力に強く影響を受ける精霊族が弱ったんだと思っていたが……。少なくとも、一年も前に、今みたいな危険な状況が北の大陸で起こったなんて話は聞いたことがないぜ。今までの話だと、光の石だって沈んだら異変が起こったっておかしくはないだろう?」
その言葉に全員が沈黙すると、校長は話を続けた。
「その通りじゃな。どうやら沈んですぐに世界に異変は起こらなかったようじゃ。じゃが……それはあくまで始まりに過ぎなかったのじゃ。光の大地の石が沈んでから、本当の危険が訪れたのじゃ……。なんとその後、残る光の石は次々と大地に沈み始めたのじゃ」
「ええっ⁉ どうして⁉ ペルソナみたいなヤツが沈めていたの⁉」
シンジが思わず大声をあげると、校長先生は静かに首を振った。
「
聞きなれない校長先生のその言葉は、低く不気味に部屋に響いた。言葉の意味がわからず、シンは思わず口を開いた。
「れ、レンサハンノウ……ってなんだべ?」
「さ、さあ……」
初めて聞く言葉にまたも双子は顔を見合わせる。校長は説明を始めた。
「連鎖反応というのはのう、一つが沈むと、まるで鎖でつながっているかのように、他の物もその反応に引きずられるように同じ反応が起こることじゃ。力というものはな、バランスが大事なのじゃ。一つの光の力が封じられれば、それに引きずられるように他も大地に沈んで行くのじゃ。どうにも光の石というものはその反応が特に強いようじゃのう」
その説明に、ようやく事の重大さに気がついたシンが大声を上げた。
「じゃあ大変だべさ! 光の石が封印されて、闇の石も封印されたら、世界はどうなっちまうんだべ⁉」
あわてるシンに、校長は静かにそれをなだめる仕草をする。
「あわてるでない。まだ光の石は全てが沈んだわけではない。まだ時間に
「なあ、じいさん」
呼びかけたのは小鬼だ。校長はちらりと視線を向け、四人は不安げにキショウを見た。思いがけずキショウの雰囲気は重かった。低い声で小鬼は続けた。
「……教えてくれよ。闇の石の地図にも闇の石の神殿にも、超古代文字で忠告文は散々書いてあった。秘石……つまりは闇の石、もしくは光の石は大地に沈めるなと。そうすれば世界の破滅が繰り返される、とな……。一体、世界の破滅ってのは具体的にはどういうことなんだ? そこは何も記されていない」
小鬼の呼びかけに校長は深くうなずいた。
そうなのだ、たしかに異変が起こっているのは間違いない。しかし、光の石や闇の石が沈むことで一体何が起こるのか、それをこの部屋の誰もがはっきりは知らないのだ。校長先生ただ一人を除いて――。
校長は深く息を吸い、そして低い声で言った。
「光の石は、この世界にある光の力を支配することができる、極めて重要なアイテムじゃ。それが沈むとどうなるか……それはすなわち、光の力がこの世から消えることを意味しておる。現に光の大地の石が沈み、今大地の精霊族や植物精霊族が力を弱めておるじゃろう? そして、今度は鱗族などの水の力を持つ精霊族じゃ。この世界の魔力の影響をもろに受ける精霊族には、深刻なダメージを与えるのじゃよ」
その言葉に
「え、待ってくれだ、じっちゃん。ロウジー達が具合悪くしたのは、大地の闇の石が沈んだからではねーんだべか?」
「闇の石はその名の通り、闇の力を支配する石じゃ。闇の力が封じられたら、力を弱めるのはなんじゃと思う?」
校長の逆の問いかけに、
「そりゃあ魔物とか、悪霊の方ですよね〜。大地の魔物といえば、陰生植物とか〜」
「そういうことじゃ。つまり、お主達の大きな間違いはそこじゃ。闇の石を封じたところで、ワシらには大きな影響はないのじゃ。もっとも、世界のバランスが崩れるから、それ単独で沈めてはよからぬことになるがのう」
「と、いうことは……話がずいぶん変わってくるな」
校長の言葉を
「この世界が、それこそお前ら精霊族が危険な状態になるとわかったのは、光の石が沈み始めてからだよな。てことは、今から一年近く前から、そんな危機的状況がわかっていたってわけだ。もしも光の大地の石が一年以上も前に沈んだんだとしたら、今大地や植物の精霊族に起こっている異変は、ずいぶんと時差があるんじゃないか」
キショウの指摘に校長がうなずいた。
「その通りじゃ。光の石が沈んだとしても、その影響がでるのには時間がかかる。大地の石が沈んだのは、話によると昨年の秋の頃じゃ」
「それでは、一年以上も前ではないですか。……ん」
と、口をはさんだレイロウ先生が、ハッと気がついたように口元を押さえた。
「待てよ……。確かロウジー達が具合を悪くし始めたのは……秋になってから……」
レイロウ先生の気付きに、校長は深くうなずいていた。
「うむ、どうやら最初の時差は一年近くあるようじゃのう。じゃが、それも期間が短くなっておるのじゃ。光の水の石が沈んだのは春頃だと聞いておるが、水の精霊族達にはすでに影響が出始めておる。一年経っていないにも関わらずじゃ」
「連鎖反応で徐々にその速度も上がっているってわけだな……」
「でも校長先生、だとしたら、その光の石の封印をどうやって止めればいいんですか?」
「それに、闇の石の話はどうなっちゃってるんだべさ?」
その問いかけに、校長先生は双子の方を向き、大きくうなずいて右手の人差し指を立てて見せた。
「そこじゃよ、そこで繋がるのじゃ。光の石と闇の石……。光の石に危険が迫れば闇の石が役に立ち、闇の石に危険が迫れば光の石が役に立つのじゃよ」
その言葉に意味がわからず双子が首をかしげると、校長先生は続けた。
「光の石が連鎖反応で沈むとなら、それをどうにかして止めねばならん。どうやって止めたらよいか考えてみるといい……簡単なことじゃよ。それには同じような力で、沈もうとする力を
その問いかけに、ハッと双子が息を飲んだ。
「まさか……」
「大地の闇の石……だべか……⁉」
思いがけない繋がり方に、ガイもヨウサも、レイロウ先生までもが息を飲んだ。
光の石の沈む連鎖を止めるために、闇の石が必要、ということだ。
ということは――
この世界の本当の危機は、光の石が大地に沈み、世界から光の力が失われていくということだったのだ。そして思いがけないことに、闇の石を沈めることは、世界のために必要な行動だった、ということではないか――!
ここに来てそんな予想外のことに気がつき、思わずシンが大声を上げた。
「じゃ、じゃあ、ペルソナが闇の石を沈めてはいたのは……⁉」
そんなシンに、校長は落ち着いた様子で静かにうなずいてみせた。
「奴らはまるで光の石の危機を分かっているかのようなタイミングで現れおった。そしてまるでその危機を回避するかのごとく、闇の石を集め、そしてそれを封じているのだとしたら……。もしかしたら、あのペルソナとかいう盗賊達が一番真実を知っていたのかもしれんのう」
「……まさか、そう繋がるとは……そりゃ予想もつかないわけだぜ」
校長のその言葉を聞き、キショウはあきれるようにそうつぶやいた。一方でレイロウ先生が頭を押さえ、うなるように言った。
「なんてこった……。そうとは知らず、我々は彼を敵と思い、邪魔をしてきたというわけか……」
レイロウ先生がそう
それを察して、シンがこぶしを握りしめ、複雑そうな顔をしていた。一方のシンジも事の真実を知り複雑そうだが、同時に怒りも覚えたようでブツブツと文句をいうようにつぶやいた。
「でも、やり方はひどかったよ! いきなり学校の時計壊したり、トモ達を行方不明にしたり……」
シンジの不満に小鬼のキショウがまあまあ、と声をかける。
「世界の危機ともなれば、手段を選んではいられないんじゃないか。それにお前らだって悪気があってあのペルソナの邪魔をしたわけじゃないだろ。オレだって、あいつを悪者としか思ってなかったから無理もねぇよ。それに」
と、キショウは双子に向き直って真面目な表情をして見せた。
「お前らが闇の石を持っていたからこそ、他の危険な奴らに渡らなかったとも言える。よく考えてみろよ。ペルソナのヤツがフタバに憑依していたんだとしたら、いつだってお前らの闇の石を奪うチャンスはあったわけだ。それをやらなかったってのは、お前達なら持っていても安心だと、ある意味で信頼できると思われていたからじゃねーのか」
キショウがそう言って、少々複雑そうな彼らをなだめる。そんな彼の言葉に思わず無言になる双子だが、ガイはまだ複雑そうに頭をかきながらうなっていた。
「うーん、あんまりあのペルソナに認められても嬉しくないけどねぇ〜」
今まで敵だと思っていた人物なのだから、そう思うのも無理はない。
気持ちの整理のつかない子どもたちをさておいて、一足先に状況を理解したレイロウ先生は校長の方に向き直った。
「いずれにせよ、この世界の危機を回避するには、闇の石を大地に沈める必要があるわけですね」
レイロウ先生が真剣な口調でそういうと、校長はヒゲをなでながらうなずいた。
「そういうことじゃ」
「でも校長先生、今私たちのところにある闇の石は二つと半分だけど、光の石は一体いくつ封印されずに残っているんですか?」
ヨウサが何気なく質問を投げかけた。そこは非常に重要なことだった。彼女の問いかけに双子がはっとして言った。
「あ、確かにそれは知っておきたいだべな」
「きっとペルソナが沈めた闇の石は、大地、闇、炎の三つだもんね。光の石がいくつ沈んでいるかによって、こっちも闇の石を沈めないといけないんだものね」
すると、校長は思いがけない低い声で答えた。
「後、一つじゃ……」
「えええっ⁉」
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