第13話 光の石の存在
校長先生が話し始めようとすると、それを
「校長先生も大事な話が出あるとは思うんですが、それよりも危険な事態が起こりました。これをご覧ください」
そう言って、右手に捕まえた小さな鬼を校長に突き出して見せた。もっとも
「ま、まさか、キショウさん……⁉ シンくん、み、見つかっちゃったの⁉」
ヨウサの言葉に、ハセワ先生はヨウサをにらみ、双子とガイは困った表情で静かに小さくうなずいて見せた。
「この小鬼をシン達の寮室の前で捕まえましてね。この小鬼の言うことには、こいつらと知り合いだと言っていまして、今朝確認をしたら、この子達もこの小鬼を知っているようで間違いありません。寮内に危険な種族を連れ込むなど言語道断です。たまたま小さな闇族だったから良かったようなものの、下手をすれば多くの生徒が
言いながら徐々に語調が強くなるハセワ先生とは裏腹に、校長の様子は落ち着いたものだった。そしてようやく小鬼が縛られていた口の
「はて、ハセワ先生はそう言っておるが……。お主、陰の気が強いようじゃな。闇族で間違いはないと思うが、鬼の一族かの?」
校長の問いかけに、小鬼は深く息を吸って、それを吐いた。しばらく縛られていたため、息苦しかったのだろう。そして目の前の校長をにらみつけるように一度見ると、観念したようにため息まじりに答えた。
「今更ごまかしても無駄だろうしな。そうだ、あの男の言う通り、オレは鬼の一族、そしてこのガキどもの知り合いっちゃ知り合いだ」
その言葉にハセワ先生は双子達をジロリとにらむ。その視線を感じて、双子も負けじと一瞬先生をにらむが、すぐに視線は仲間のキショウに向く。
校長は続けて問いかけた。
「今はあまり時間がない、
その問いかけにキショウは一瞬相手を探るような視線を向けた。真剣に校長の瞳を見、視線をそらさずにそのまま続けた。
「話がわかる人ならいいんだが……一応言ってみるか。闇の石の地図の本の解読を頼まれ、そしてその手伝いのためにあの場にいた。……って言ったら、どうする?」
その言葉に、校長が珍しくその
「闇の石……いや、あの文字を読めるだって……? シ、シン、それは本当なのか?」
「じっちゃん、キショウは超古代文字が読めるんだべ」
「キショウってのは、その小鬼の名前です。僕たち、湖の神殿に行った時に初めてキショウと出会って、時々助けてもらっていたんです。今ではあの闇の石の本もだいぶ読めるようになって、あのペルソナがしようとしていることも、大分分かるようになったんです」
双子が説明を始めると、ハセワ先生は双子を大声で叱り飛ばした。
「何をわけのわからないことを言っているんだ⁉ 今はお前達のお遊びの話をしている場合じゃないんだぞ! 闇族がどれだけ危険な種族か、分かってるんだろうな⁉」
しかし――
「ハセワ先生、待ちなさい。少し黙っていてもらえるかの」
話を止められたのはハセワ先生の方だった。思いがけない制止に先生が面食らったのは言うまでもない。一瞬言われた意味がわからず、混乱した様子で、シン達と校長を交互に見ながら口をパクパクしていた。
「え、や、校長? あの、今はこいつらの遊びの話をしている場合ではなくてですね……」
ハセワ先生の言葉に、校長は鋭い眼光を向け、静かに口を開いた。
「今は闇族がどうとかいう話をしている場合ではないのじゃよ。それこそ、今はこの子たちの話の方が重要じゃ」
意味がわからずあたふたしているハセワ先生を置いて、校長はキショウを縛り付けていた
「どうやらお主達、ワシのいない間に真実に近づいていたようじゃのう」
その言葉にシンはうなずき、少し安心したように胸をなで下ろした。ひとまず、キショウをどうこうする、という話は置いておけそうだと思ったのだ。それを察してシンジはすぐに口を開いた。
「校長先生、その小鬼の話も大事ですけど、でも、彼が寮にいたのも事情があるんです」
「そうなんだべ、それよりも大事な話を聞いてくれだ」
と、双子が言葉を続けようとすると、それを空いている左手で制し、校長は続けた。
「お主達がここまで
その言葉にシン達四人がうなずき、また口を開こうとすると校長はさらに続けた。
「続いて水の精霊族らが弱っておる。それは古の力によって、世界中の水の魔力が大地の奥深くに封じられようとしているから……そうじゃな?」
「さすがだべ、じっちゃん! よくオラ達が言いたいことがわかっただべな!」
言いたかったことが当てられて、シンが感心して声をあげると、校長先生はまたいつものように穏やかに笑って見せた。
「いやなぁに、ここまではレイロウ先生からも聞いていたのでな。ついでに言うと、最近大地の女神より
その校長の指摘にヨウサが大きくうなずいた。
「そうなんです。このままじゃ世界が危ないって……。そう女神様を神降ろしした時に言われたんです。そして女神様の言葉にもあったんですけど、そんな危険な状態にしているのが、きっとあの闇の石なんです」
今度はヨウサに続いてシンジが言葉を続けた。
「校長先生、ペルソナがやろうとしていることがわかったんです。キショウが本を読んでくれて、はっきりしました。ペルソナは、あの闇の石を集めて、それを大地に封印しているんです。最初が大地の闇の石、そして闇の闇の石、最近奪われたのが炎の闇の石……」
「そして恐らく……」
シンジの言葉を継いだのは、校長の手のひらに立つ小鬼だった。
「フタバに憑依していたペルソナは、こいつらの闇の石の地図を使って、闇の石の神殿の場所を探していたはずだ。フタバがシン達の部屋で唱えた呪文……あれで闇の石の神殿の場所が映しだされた。恐らく、闇の石の神殿こそ、石を封じることができる場所なんだ」
キショウの言葉に、校長がうなるようにうなずいた時だ。混乱気味のハセワ先生と、いまいち話がつかめ切れていないレイロウ先生の二人が、話を割って口をはさんだ。
「待ってください、校長先生! こいつらの話が今ひとつわかりませんが、このチビは闇族の鬼で間違いはないですよね⁉」
いら立ちげに声を荒げそうなハセワ先生の一方で、レイロウ先生は
「闇の石の話は分かりますが……この鬼の話は信じていいものでしょうか……。それこそこの子達を信頼させて、襲いかかろうなんて、そんな危険なことは……」
「そうですよ、それこそこの鬼に
二人の言葉に、思いがけず反発したのはシン達だった。
「キショウは頼れるオラ達の仲間だべ! 話だって本当だべさ!」
「ペルソナ達と戦ったときだって、キショウは僕たちを助けてくれたもん!」
「キショウさん、魔法の腕も立つし、話してわかったの。いい人ですよ、先生」
「確かに小さいくせに生意気だけどね〜」
「それだけ余計だっ!」
ガイへのツッコミはもちろんキショウ本人である。さらにシンは続けた。
「闇族とか精霊族とか、そんなのオラ達には関係ねーだ。友達は友達だべ」
思いがけず、その言葉にレイロウ先生が目を見開き、
「……確かに、種族一つで差別はいけませんな、先生」
そう言って、にこやかな笑みを浮かべるのは校長先生だ。その言葉にまだ反発しようとするハセワ先生の隣で、レイロウ先生が深く息を吸い、低い声で答えた。
「……私としたことが……またこんな……。子ども達の言う通りですね……。彼らが信じる人を、私たちも信じてあげなければ……」
レイロウ先生のその言葉に校長は深くうなずき、言葉を続けた。
「その通りじゃ、レイロウ先生。どうやらこの小鬼がシン達を助け、おかげで闇の石の真実に近づけたようじゃのう」
穏やかにひげをなでながらそう言う校長先生に、四人の子どもたちは大きくうなずいてみせた。そんな四人に答えるように校長は話を続けた。
「確かにお主たちの言うとおりじゃ。どうやら今、世界全体を巻き込む大変なことが起こっているようじゃ。そしてそれにあの闇の石が大きく関連しておる。それは間違いない。じゃが――間違いは正す、それも先生の務めじゃ」
思いがけない言葉に、シン達四人はギョッとして顔を校長に向けた。話が通じると思っていたのに、急にそんなことを言われて不安になったのだ。
逆にハセワ先生は満足げに大きくうなずいた。
「その通りです、校長先生! こいつらの
「じっちゃん! オラ達の話、信じてないだべか⁉」
「本当に女神様から言われたんです! 巫女さんに聞いたら分かります!」
思わず双子がそう口走ると、思いがけず校長先生は視線をじっと双子に向け、真剣な口調で言った。
「本当に、闇の石を封じるのを止めろと……そう言われたのかの?」
その言葉に双子はだって、と口ごもる。その一方でヨウサは考え込み、首をかしげていた。
「そう言われてみれば……女神様を神降ろしした時、そうは言ってなかったわ。確か世界の破滅が近付いているから、秘石でそれを防げ、とか、
「古の秘石を使え、と……そう言ったのじゃな?」
校長先生の問いかけに、ヨウサは自信なくうなずくが、双子は力強くうなずいた。
「確かに、闇の石とは一言も言ってなかっただべが、イニシエの秘石とは言っていただべ」
「そして
その言葉に、校長先生はヒゲをさすりながら深く息を吸った。その様子に四人は思わず沈黙してしまった。
闇の石のせいで世界に危機が迫っていると思っていたのだが、違うのだろうか? 校長先生に質問されて、シン達は自分たちの推理に自信を失いはじめていた。
しばしの沈黙をはさみ、最初に沈黙を破ったのはレイロウ先生だった。
「シン達を疑うわけではありませんが、神降ろしした巫女の言葉は
レイロウ先生の言葉にシン達四人も
校長先生の言葉では、どうやら世界に危険が迫っていることに間違いはないらしい。だが、その原因は闇の石ではないのだろうか……?
部屋全員の視線を受け、ようやく校長が長い沈黙を破った。
「ここより北に北方大陸という土地があるのは、みんな知っておるな?」
「あの大陸には昔から不思議な神殿があってのう。代々その神殿を守る守護役という光の術の使い手がおるのじゃ。ほれ、お主達の寮のお手伝いにリサという女子生徒がおるじゃろう。あの子もその家系なのじゃ」
思いがけない人物の名に、シン達だけでなく、先生も、そしてキショウまでも目を丸くする。
「え、リサって北方大陸の出身だっただべか!」
「確かに肌の色が白いと思った!」
「どうりでリサのヤツ、光魔法に長けてるはずだぜ! 初めて知った……」
小鬼の反応に思わず疑問が浮かぶ先生二人だが、今はそれをつっこんでいる場合ではない。校長は続けた。
「なぜ、守護役が光の術に長けているのか……。それは簡単なことじゃ。彼らが守護しているもの……それこそが、『光の石』だからのう」
その言葉に、双子もヨウサもガイも、レイロウ先生までもが息を飲んだ。
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