第5話 真実への一歩
翌日のことだった。その日は冷たい風が吹き、秋も深まった時期だと感じるような天気だった。秋晴れのきれいな青空だったが、空気が冷たく澄んでいた。こんな天気ともなれば、放課後には子ども達が元気に走り回っていそうなものだ。しかしこの日の学校の校庭は、いつもなら元気に走り回る赤髪の少年たちの姿がなかった。
学校の用事を終え、つい先ほど学校の登校口から出てきたばかりの少年は、大きく背伸びをした。気持ちのいい空気を肺いっぱいに吸い込んで静かに吐き出す。校庭を眺め、そこの生徒の人数が少ないことをなんとなく感じ取って、寂しげに少年はため息をついた。そんな少年の銀髪を
(一体、僕どうしたんだろう……)
何度目になるかわからない自問自答を、少年は頭の中で繰り返した。
(最近また意識が飛んでいる気がする……)
原因不明の現象に、正直だいぶ気は滅入っていた。とはいえ誰に相談すればいいかもわからない。体は至って健康なのだ。医務室に行ったことがないわけではないが、特に異常はないと言われた。両親のいる町に戻った方がいいのかと悩む時もあったが、そんなことで親に心配をかけたくない思いもあった。
(……とにかく、勉強や学校生活に困っているわけではないし……大丈夫……大丈夫なはずだ)
自分に言い聞かせるように、心の中で唱えると少年は顔を上げた。もう寮の入り口まで歩いてきてしまっていた。
いつものように宿題をやろうと寮の食堂に顔を出す。と、そこで少年は意外な光景を目にした。あまりの珍しさに思わずその方向に歩み寄ってしまったくらいだ。
「……こんな時間に、どうしたの、シンくん達……」
そう言って目を丸くする少年の目の前には、赤髪の少年シンと、その弟のシンジ、そしてその友人のガイが食堂の机に頭を寄せて話し合いをしていた。こんな時間に彼らが食堂にいるなんてことは今まで数えるほどしかなかったのだから、少年が驚くのも無理はない。
「あ、級長〜!」
最初に少年に気がついたバンダナの少年ガイが声をかけてくる。それに気がついた赤と青の双子も背後の少年に振り向いた。
「お、フタバ。こんにちはだべさ」
「やっぱり級長はこの時間から食堂なんだね」
双子はその両手に大きな本を広げていた。その本が何かと銀髪の少年は視線を向けた。古びた黒っぽい本。中には大きな魔法陣、そしてズラズラと書き
一瞬の沈黙。ほんの一瞬ではあったが、動きの止まった銀髪の少年の様子を、静かに双子は見つめていた。
「――その本……あれ、どうしたの? また石でも探しているの?」
しばしの沈黙をはさんで、銀髪の少年は質問を投げかけた。
「い、いや、違うだべよ。もっとすごいことをしていたんだべさ!」
シンはそこで少しどもりながらも胸を張る。
「実はね、今まで出来なかったことが出来るようになったんだ」
シンの言葉を引き継いで、シンジがニヤリとほくそ笑む。その表情に銀髪の少年が目を見開いた。
「え、ど、どういうこと? 本の使い方がもっと詳しくわかったの?」
銀髪の少年の問いかけに、シンがコクコクと何度もうなずく。
「そうなんだべ、そうなんだべ。な、なっ! シンジ!」
少々わざとらしく大げさに喜ぶシンに、弟はちらりと目を細め、唇に指を当てる。どうやら大声で
「実は今まで石を探すだけの本だと思っていたけど、本当はこの本、もっとすごいことができるってわかったんだ」
「すごいこと……? それって一体なんなの?」
シンジの発言に、銀髪の少年も思わずごくりと喉を鳴らす。シンジは大きくうなずいて言葉を続けた。
「あのペルソナの悪事が一体何なのか、それがちょっとづつ見えてきたんだ。それこそ、世界が壊れちゃうくらいの大変な悪事だよ! でも、そのペルソナの悪事自体を阻止できるヒントが、この本にあるって分かったんだよ!」
シンジが強い口調で言うと、銀髪の少年は一瞬唇を
「そ、そんな大変なことになってたの……? ペルソナがそんなすごい悪事を……? 一体どういうこと?」
少年が食いついたことを確認して、シンジは大きくうなずいて本を閉じた。
「最近、植物精霊族のみんなが調子を悪くしているのも、最近陰の気が強くなっていることも、実は全部ペルソナが関連しているんだ。そして、あの闇の石も」
と、そこでシンジは本をじっと見つめ、強い口調で続けた。
「闇の石が今、大地に沈められているんだ。強い陰の力が大地に入り込んで、それによってこの世界が不安定になっているんだ。このままじゃ世界自体が危ない。だから、ペルソナがやろうとしている悪事を、僕たち止めなくちゃいけないんだよ」
シンジの言葉に、銀髪の少年が
「でね、この本は闇の石を探すだけのアイテムじゃないことが分かったんだ。ペルソナの悪事を阻止できる方法が書いてあるかもしれないってことがね!」
そこまで言って、シンジは両手でがっちりと本をつかんで銀髪の少年に見せつけた。今まで黙って聞いていた銀髪の少年が、恐る恐る本を指差した。そして
「で、でもシンジくん、確かこの本……超古代文字で書かれていて、読めなかったはずじゃ……」
まるでそのセリフを待っていたかと言わんばかりに、シンがようやく口をはさんだ。 「フッフッフッ……。実はだべな、フタバ……。オラ達、とうとう解読方法を見つけたんだべさ!」
「ええっ⁉」
銀髪の少年にしては珍しく大声で叫ぶ。思わずシンもシンジも彼の口を押さえ込む。向かい側にいたガイまでも、その手を伸ばしたほどだ。その様子に、あわてて銀髪の少年は自ら口を抑え込んだ。
「ご、ごめんごめん……。で、でも本当なの? 本当に本の解読方法が分かったの⁉」
信じられない、という彼の表情と態度に、シンジもシンも不敵に笑みを浮かべて静かにうなずく。
「色々苦労してね」
「ようやくだべさ」
「で、ど、どうやって解読するの⁉」
双子の言葉に興奮を抑えきれなくなった銀髪の少年が気持ちをはやらせる。その様子にシンは、もったいぶるようにちっちと指を振った。
「まあ、詳しくはまた後で話そうべさ。大事なことだべから、ここでは無理だべ」
「そうそう。だからそろそろここから去って、人の出入りの少ない夜にしようって話を今していたところだったんだよ。よかった、フタバくんもちょうど来てくれて。話しに行く手間が省けたよ」
兄の言葉に続いてシンジがにこりとほほえむ。そして本を抱え込むと、そのまま双子は席を立つ。
「じゃあフタバくん、またお風呂上りに僕たちの部屋に来てよ。そこでこの本の解読をしよう!」
そう言い残し、双子は食堂を出る。少し遅れてそれにガイが続く。そんな三人の様子を、ぽかんとした表情で銀髪の少年は見送っていた。
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