第7章 双子、盗賊の真実を探る

プロローグ 途絶える記憶


*****

 少年は一人汽車に乗り込んだ。たくさんの人がおみやげや御札などを持って、嬉しそうな、時にはホッとしたような表情で汽車に乗り込んでいる。そんな中、少年だけは沈んだ表情だった。適当に空いている席に腰かけると、程なくして汽車は進みだした。窓から見える景色を眺めながら、少年は銀の髪をこぼすようにうなだれた。

 まだ日は高い。お昼はもうすぐだろう。お腹が空いていないわけではないが、今はそんなことに気が向かなかった。

「……今日はロウコクの町……か……」

 気がつけば知らない場所に来ていることも、これが初めてではなかった。自分でもわからない不可解な行動に、心底少年は気が滅入っていた。しかしこういう奇妙なことは頻繁ひんぱんにあるわけではない。忘れた頃に現れるのだ。

(今日の前はいつだったっけ……。ああ、先月だったかな……お屋敷の庭にいた事もあったし……その前は……ええと…………)

 思い出したほうがいいような気がする。いや、思い出さなきゃいけないはずだ。思い出していけば原因が分かるような気がする。こんな奇妙な現象が起こるようになったのは何時の頃からだったっけ……?

 思い出そうとすると意識がぼうっとする。眠くなるような奇妙な感覚だ。必死に頭を働かせないといけないのに、それを何かが邪魔してくる。

 朦朧もうろうとする意識の中、ふっと雨の日の様子が浮かびだされる。薄暗い夕方の天気だ。天を見上げて――そこから降りだした雨……。その雨粒が瞳に落ちて――。


 気がつけば瞳を閉じていた。ハッとしてまぶたを開けば、ココ山の駅まで来ていた。彼が住んでいるセイランの駅はこの次だ。

「あぶなかった……。帰ったら宿題をしよう。ああ、お昼も食べないとな……」

 だいぶ人が減った汽車の中、少年は一人そうつぶやいて目をこすった。彼の頭の中はそれでいっぱいだった。先ほどまで気持ちを沈ませていた考え事など、初めからなかったかのように。

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