第14話 共同戦線
『
気を引くようにシンが放つ風の刃を、黒い鬼は物ともせずにあの巨大な右腕で払いのけていく。その
『
勢いよく放たれた冷気に身体の動きが
「キショウくん……!」
しかし今の彼らは、彼にその攻撃の手をためらっている余裕はない。逆に攻撃して相手の動きを封じねば、石を取り出すチャンスすら生まれない。それでは肝心のキショウを助け出すことが出来ないのだから――!
「行くぞ!」
ペルソナのかけ声が合図だった。シンジとペルソナは同時にその術を発動した。
『召喚――
『ドマービリス!!』
同時に右腕と左腕にシンジとペルソナの術が襲いかかった。左腕は肩から完全に氷付き、振り上げることもできなくなった。巨大な右腕はその手首から上をがんじがらめに押さえつけ、ペルソナのその両腕に引き止められた。
両腕の自由を奪われて、再び黒い鬼が大声で叫び声をあげ、また黒い光が
「今だ! シン!!」
「分かってるだべよっ!!」
ペルソナの呼びかけに、シンは空中から勢いよく落下するように鬼に突撃していった。
「せいっ!!」
落下の勢いも合わせて、勢いよく右腕の手の甲目がけ短剣を振り落とした。硬すぎてその振り下ろしたシンの両腕に衝撃が走りぬけ、一瞬腕を
「かた〜〜ッ!!」
衝撃に両腕を
「避けて! シン!」
剣の衝撃で鎖がくだけ、勢いよく振り回される黒いこぶしが視界に入った。
「うおっ!!」
寸でのところでそれをかわすと、勢いよく腕を振り回しながら身体を回転させる黒い鬼に、シンジとペルソナが距離を取った。
「くっそ〜! あの程度の衝撃じゃ石が
間合いの外に出ながらシンジが一言毒づくと、兄も合わせて口をはさむ。
「本当にその作戦でいけるんだべよな、ペルソナ!?」
双子の言葉に、ペルソナは次の術の準備を構えながら答えた。
「右腕を破壊してもいいなら、他の方法がないわけでもないが」
「それはやめて!」
双子が応えるよりも早く、リサが悲痛な声を上げる。その声に双子も仮面の男も思わず息を飲む。
「……ならばやはり今の方法しかあるまい。しかし……正直あの小鬼自身の時間はないぞ」
答えるペルソナの言葉に反応するかのように、黒い鬼が苦しげに雄叫びを上げた。見ればその牙の隙間から血を流している。合わせてあの黒い光の
「身体の内側から破壊が進んでいるな……」
冷静に言い放つペルソナの言葉に、双子には焦りから冷や汗が出ていた。
意識をなくして闇の力で暴走しているが、肝心のキショウ自身の身体は確実に破壊が進んでいるのだ。闇の力の器になりきれず、その力が徐々にその器から溢れ出そうとしていた。それはまさに、空気を入れすぎた風船と同じように……!
短剣を握るシンの腕に力が入った。同じようにシンジが力のこもった声で呼びかけた。
「やるしかないよ、シン……!」
「オラ一人の剣では衝撃が弱いだべ! シンジ……!」
「……分かった!」
短くやりとりする双子は
「ヨウサちゃん、僕らの攻撃の直前に特大の……頼むよ!」
「うん……!」
「今だ!」
大きく鬼がよろめいたその瞬間、ペルソナが叫んだ。それを合図にシンジとペルソナは再び呪文を唱えた。
『氷刃!!』
『ドマービリス!!』
しかしシンジが放った魔法、今度は弱い氷魔法だ。それにペルソナが気付いてハッとするが、そんな間もなくシンジとシンは鬼めがけて駆け出していた。見れば今の魔法で創りだしたのであろう氷の剣が、シンジの右腕には握られていた。
「封じる力が弱い! 無理だ!!」
仮面の男があわてて叫ぶがもう遅い。駆け出した双子は敵の間合いに入っていた。その直後、動きを封じたはずの鬼の左腕の氷がくだけた。怒りのこもった
「危ない――!」
思わずペルソナが叫んだその時だ。
『
少女の叫ぶような呪文が響き、その
その直後だ。辺り一面に鳴り響くような激しい放電の音が鳴り響き、あまりの衝撃音にその場にいた全員が骨まで震えるような感覚に襲われる。そして一気に黒い鬼の姿に火花が起こった。
――特大の雷魔法が直撃したのだ。
たまらず黒い鬼が大口を開け、腕もそのままに叫び声を上げた。
気づけば双子は鬼の背後に回っていた。大きく開かれた右手の甲めがけ、双子は同時に剣を振り上げた。
「せ」
「え!」
『のぉおおおおお!!』
放電と
――ドクン――!
再びあの鼓動のような音が鳴り響き、双子の目の前であの赤黒い
石の同化が解けたのだ。
ハッとする間もなく、今度は急激に黒い鬼の姿から黒い煙が吹き出した。それと同時に見る見るうちに黒い鬼の姿が縮み――
「おっと!」
反射的に手を伸ばしたシンの両手のひらにぽとりと、あの小鬼が落ちてきた。そう、彼らがよく知っている小鬼、キショウの姿が――。
「キショウ!」
「大丈夫だべか!?」
思わず二人が声をかけると、リサが双子に駆け寄ってきていた。
「キショウくん!」
リサはシンの手のひらに横たわる小さな小鬼に、そっと手を伸ばし、その目を
「キショウくん……しっかりして……!」
「心配ない、命に別状はないだろう」
心配する双子と美少女に、静かな男の声が響いた。床にひざまずいた状態のペルソナは、ゆっくりと立ち上がりながら続けた。
「闇の石との同化が解けた今、体の内部と精神に多少のダメージは受けたがあの短時間なら死に至ることはない。リサ、貴女の魔法で十分に治療が可能な程度だ」
その言葉に、心底安心したようにリサがうなずいた。うなずくと一緒にその瞳からポロリと涙の粒が落ちる。
「よかった、ひとまずキショウは大丈夫なんだね……」
「良かっただべ」
と、双子も
「あ、闇の石……!」
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