第16話 闇の石
それから、三人は下で待機していたガイをつれ、校長とレイロウ先生と共に魔方陣に乗って学校までワープした。その日は遅かったため、しっかりと休養を取るようにと四人は帰らされた。しかし翌朝、授業が始まるよりも早く、四人とレイロウ先生は校長室に呼び出されていた。
落ち着きある校長室は、校長席の後ろからさんさんと光が降り注ぎ、とても明るかった。ピカピカに床の机も磨かれた広い部屋は、四人にとって緊張感もあったけれど、それ以上にわくわく感が勝っていた。お客様が座るためのふかふかのソファに、長いガラス製のローテーブル。周りには大きな棚が並んでおり、その中には不思議な魔法アイテムが所せましと並んでいた。四人は、そのテーブルを前にして、その先にある校長席と対峙するように座っていた。ふかふかのいすを何度も確かめたり、棚をのぞいたりして、全く落ち着きがない。
四人はすっかり元気を取り戻したようだ。唯一シンだけが両腕に包帯を巻かれ、痛々しい様子ではあったが、そんなことは全く気にかけていないようだ。
そんな四人の横に、レイロウ先生が一人座っていた。
「さて、今回の事件は思ったよりオオゴトのようだのう」
校長が椅子に座りながら口を開いた。
「あやつ……ペルソナといっておったかのう。あやつが、今回の時計を壊した犯人だったのじゃな」
校長がひげをさすりさすり言うと、シンが深くうなずいて口を開く。
「そうだべ。オラたちの目の前で時計壊して、その中の石を持って逃げただべ」
「石? 石ってなんだい?」
レイロウ先生の問いに、シンジが振り向いて答える。
「闇の石です。超古代文明の時代に作られたって言う…」
その予想外の答えに先生は目を丸くする。
「超古代文明って……あの魔法学会でも存在が確認されてない幻の文明かい? ホントか嘘かもわからないっていう……」
「嘘じゃないんですってば~! ホントに超古代文明はあったんですってば~!」
唐突にガイが訴えると、先生は困ったように頭をかく。
「そういわれてもなぁ……。確認しようもないことじゃないか」
「じゃが、あやつ……ペルソナは確かに『闇の石』と言ったんじゃな」
校長が気にせず続けて問うと、シンはまた深くうなずいた。
「まちがいねーだ。光の石って言ったら笑われただよ。『これは闇の石だ』って」
「で、多分、今回図書館に現れたのも、きっと闇の石を狙っていたんじゃないかなって思うんです」
シンに続いてシンジが言うと、はっと気がついたようにヨウサが口を挟んだ。
「そう、思い出した! なんであの時、あの図書館の部屋に、先生も校長先生もワープできていたの!?」
「あ、確かに! 僕ら、あそこに行くなんて、誰にも言ってなかったよ!」
ヨウサに続いてシンジも言うと、レイロウ先生はため息をつきながら言った。
「お前達、大浴場でなにやら術を使っていただろう? こっそり後をつけて、先生聞いていたんだ。そしたら、お前達、図書館に犯人を捕まえに行くぞって騒いでいたからな」
「それで図書館に先回りしてただか……」
「ぜーんぜん気がつかなかったよ~……。不覚!」
ちょっとガイが悔しそうに言うと、レイロウ先生は困った顔をして続けた。
「先生も辛かったんだからな。本当は行く前に止めたかったが、ホントに真犯人がそこに現れるなら鎌かけないといけないからな。そこで校長先生に相談して、前もって準備していたわけさ」
レイロウ先生の言葉に続けて、校長が愉快そうに笑った。
「ほっほっほ……。これでも結構細工したんじゃぞ。あやつが狙いそうな文献を探し出し、昼間のうちに図書館に行きワープの魔法陣を描き、あやつが現れるまで学校に待機し、現れてもあやつが部屋に入るまでこらえていたのだからな。お主らがまさか戦闘を始めるとは思っておらんかったから、ひやひやしながら待機しとったわ」
思いの他、先生達の
「全く……。少しは私らの心労をわかってほしいよ……」
親の心子知らず、とでも言うべきか。
「で、じっちゃん。ペルソナが狙いそうなブンケンってなんだべ?」
「アイツが狙いそうな本ってことだよ」
シンジが助言するその目の前で、校長が一冊の本を取り出した。黒い表紙に日焼けし、ぼろぼろになった背表紙、表紙には見慣れない文字が並んでいた。その文字の中、一際輝く黒い宝石が埋め込まれ、表紙を装飾していた。その宝石に二人は見覚えがあった。
「あ、それ!!」
「闇の宝石だべ!!」
二人が叫ぶと、その本はふわふわと校長の手を離れ、二人の目の前に飛んできた。シンはそれを受け止め、じっと表紙をにらんだ。
「……?」
「あれ、なんかこの石、前見た闇の石とちょっと違うね」
二人はまじまじと宝石を観察した。学校の時計に入っていた石は、雫型をした黒い宝石で、うっすらと緑色に光っていた。しかし目の前の本に埋められた宝石は、黒い光は変わらないまでも、その形はきれいな球体で、緑色の光は放っていない。かわりに、その球体の中で、金の光がキラキラと輝いていた。
「何、シンくん? この石が闇の石なの?」
ヨウサが立ち上がり、のぞき込むように問うと、シンもシンジも首をかしげた。
「確かに闇の石っぽいんだけど……」
「前見たものとちょっと形が違うだ。前のはこーんな、雫型だっただべ」
と、シンはその手で形を作ってみせる。
「でも、放っている力は、確かに似ているんだけどね……」
シンジが腕組みしながら言うと、校長が再び口を開いた。
「おそらくそれは『闇の石』の欠片じゃ」
「カケラ? カケラって言うことは、割れちゃってるの?」
シンジが問うと、校長はひげをなでながら言葉を続ける。
「ワシも昔聞いた話じゃが……闇の石は、くだいて使われることもあるのじゃ。くだいても十分、力を発揮してくれるからのう」
「校長先生……。ということは、ホントに超古代文明はあったのですか!? そして、闇の石は本当に存在するんですね!?」
レイロウ先生が少し興奮気味に問うと、校長は立ち上がり窓の方を向いた。シン達に背を向け、校長は言葉を続ける。
「ワシとて分からぬ、伝説の時代じゃ。だが、現にこうして闇の石を狙う
校長の言葉に四人は目を輝かせた。
「本当に、闇の石なんだ……!」
「ほんとに超古代文明はあったんだべな!!」
「なんてスゴイことなの……!」
「ね、ボクの言ったこと、正しかったでしょ?」
口々にはしゃぐ四人を見て、レイロウ先生がふと首をかしげる。
「待てよ……。ガイ、なぜお前は超古代文明の話を知っているんだい? 噂話にしてはずいぶん……」
「それはいずれ分かる。今は追及する時ではない」
レイロウ先生の言葉をさえぎるように、校長が意味深な言葉を発した。シン達は意味が分からず首をかしげたが、レイロウ先生はそのまま黙り込んでしまった。校長は四人に向かって言葉を続けた。
「それより、もっと重大なことがある」
その声が、いつもの優しい口調ではなく、いつになく真剣な空気を感じ取り、四人は口を閉じ校長を見つめた。
「あやつ、古代魔法の使い手じゃ」
「ええっ!?」
その発言にガイが驚きの声を上げる。その声にシンジが思い出したようにつぶやく。
「コダイマホウって、ガイが前言っていた……?」
「こ、コダイマホウ?」
意味が分からずシンが首をかしげると、隣でヨウサもうなる。
「古代って事は……ずっと昔の魔法ってコト?」
「さよう」
校長はそう答え、窓から目をそむけ、四人の方を見た。
「古代文明時代には、魔法は存在しなかった。古代の時代には物質の法則、科学が発達したのじゃ。だがそれよりはるか昔の、おそらく超古代文明の時期には魔法が存在したのじゃ。それも今の魔法とは法則も威力も違う、恐ろしい魔法じゃ」
そういって校長は杖とあごで、シンの持っている本をさし、
「その本も、おそらくはその超古代時代にかかれた魔導書じゃ。今の言葉ではない。かといって古代文明の時の文字でもない、古代文明の時代に滅んだとされる超古代文字でかかれた本じゃと、ワシは思っておる」
校長の言葉に、シンは中を開いてみた。古びた本の匂いと共に、見慣れない文字が目に飛び込んできた。びっしりと並んでいる文字の全てが、全く読めない物だらけだった。
「今、その古い文字を解読しようとしている研究者も少なからずおってな。ワシもその一人じゃ。その中に書かれていた言葉――あのペルソナという男は、それをいとも簡単に唱えておったのじゃ……」
校長の言葉に、思わずみんな静まり返った。自分達が敵対している人物が、そんなにも正体不明な強敵だったとは思わなかったのだ。
校長は椅子に座り、突然ほっほといつもの笑い声を上げた。思わず四人はびくっとする。
「ほっほっほっほ……。ずいぶん面白いことになってきたのう! あやつが何をしようとしておるのか分からんが、これを解決できたら面白いことになるぞい。闇の石の正体も超古代文明の存在も、古代魔法の謎も、全て全て解けるかもしれんからのう!」
その言葉に、シンもシンジもヨウサも、ガイまでも、うつむいていた顔をあげた。
「……たしかにそうだべな……!」
「これは、何とかするしかないよね!」
「もお、こーなりゃ乗りかかった船よ!」
「そーだそーだぁ~」
校長の言葉に、四人の気持ちが一気に盛り上がったようだ。好奇心に目を輝かせ、にやりと笑いあった。そんな様子を見て、校長は又もほっほと笑う。
「ワシから、お前達にじきじきに校長命令を下そう。お主ら四人は、この闇の石を探し出し、あのペルソナという謎の男の野望を阻止してやるのじゃ。何が目的か知らんが、少なくとも、時計を壊した、物を盗んだ、そして生徒を傷つけた罪で捕まえねばならんしのう」
その発言にレイロウ先生がぎょっとして校長を見たが、四人は全く気にしない。それどころか、校長からそんな任命まで受けたら、興奮も気分も最高潮だ。
「もっちろんだべ! じっちゃん、オラに任せるだ!!」
シンはやけどした腕の痛みも忘れ、その腕を勢いよく天へ突き出した。
*****
暗い暗い闇の中、不気味な白い仮面が浮かんでいた。
――ペルソナだ。
ここはどこか、建物の中だろうか。彼の足元は冷たい石の床で、黒光りしていた。やたらと広いその黒い空間の中心にペルソナは立っていた。
「まさか、あれほどの危険因子が、早速邪魔をしてくるとはな……。これもやつらの手の内か……?」
ペルソナはそうつぶやき、左手をマントから出してその人差し指を光らせた。その指先に強力な魔力が凝縮されていることがわかる。
「いずれにせよ、事を急ぐ必要が出てきた……。久しぶりにお前達の力、借してもらおうか……」
ペルソナはそういって、左手の指で空中に文字を書き出した。指で描かれた文字は光を放ち、その黒い空間に浮かび上がった。
ペルソナは空中に丸い文字を描き、呪文のように言葉をつむいだ。
「その者、混沌の闇より力を呼び出す召喚師……。いでよ、『オミクロン』!」
描かれた文字は緑色に輝き、光は次第に大きくなった。
続けてペルソナは三角の文字を描く。
「その者、深き大地の底より闇を導く操作者……。いでよ、『デルタ』!」
三角に描かれた文字は赤く光を放ち、同様に光は大きさを増す。
ペルソナはまた指で文字を描く。その指で今度は四角をかたち取り言葉をつむぐ。
「その者、全ての内を闇で惑わす呪術師……。いでよ、『イプシロン』!」
四角に描かれた文字は青い光を放ち、やはり徐々にその光を大きくしていった。
三つの光はどんどん大きくなり、次第にペルソナと同等の大きさまで成長した。
すると、光りは次第にその輝きを失い、次第に消滅していった。しかし光は完全には消えず、そこには始まりと同様、描かれた文字がその光を放っていた。
――いや違う。
光る文字の真下に、それぞれ二つの眼光が光った。それは頭を下げ、腕を床に付け、足を折り曲げひざまずく。……そう、三人の人間がそこに現れたのだ。
「お呼びですか、われらが主、ペルソナ様……」
三人は顔をあげ、不敵にほほえんだ。その目の前で、ペルソナの仮面が、空洞の瞳と大きく裂けた空洞の口で、不気味にほほえんでいた。
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