第2章 双子とあやしいお兄さん

プロローグ 怪しい転校生


「きゃぁ」

「ホントだ、かっこいい~」

「ね、リサ! どう? あの人、かっこよくない?」

 クラス中の女の子がおおはしゃぎだった。

 朝のホームルームの時間、専門高等学年一年のあるクラスでは、転校生の話で持ちきりだった。クラス中の女の子がその転校生を見て、黄色い声を上げているのだ。

 予定の確認をしている最中に突然話を振られ、リサはあわてて顔を上げた。

「あ、ごめん、聞いてなかった…」

「何をどうしたら聞かないでいられるのよ! 見てよ、あの人! すっごくかっこいいと思わない?」

 リサの反応に一瞬あきれるようなそぶりを見せたが、その女生徒はかまわず会話を続けた。リサの腕を軽く叩き、教卓の隣に立っている一人の少年を指差しながら、黄色い声を上げる。

「今日からこのクラスメイトになるらしいわよ~。どーしよ、仲良くなっちゃおうかな」

 女生徒の声を聞きながら、リサも指差す方向に目を向けた。灰色の肩ほどの長い髪、整った顔立ちに、キリリとした目鼻立ち。少々きつめのな印象も受けるが、それは逆に彼の男らしさを助長じょちょうしていた。背丈は高く、体格もがっちりとしたスポーツマンタイプ。クラスの女の子がはしゃぎだすのも無理はない。

 今まさに、そんな彼の隣に立つ先生が、彼の紹介を始めるところだった。

「今日からこのクラスの新しい友達だ。彼は遠く南の国から来た魔導師の見習いだ。君達と同じように、専門分野を極めるために、わざわざこの学校に来た意欲的な生徒だ。これからみんな、仲良くしてくれよ」

 紹介されると、彼はちょっとはにかむように笑い、頭を軽く下げた。その表情にまた女の子がきゃあきゃあと声を上げる。

「さ、自己紹介して」

「これからこのクラスメイトになります、『デュオ』といいます。よろしくお願いします」

 先生のうながしに男が名乗る。見た目どおりの低い男らしい声に、リサの隣に座る先ほどの女生徒がうっとりとため息をつく。

「やばーい、やっぱり私、彼好みだわ~。ね、リサ。彼、いいと思わない?」

「う、うーん……。そ、うだね……」

 リサはちょっと引き気味に答える。そっと隣の友人に目をやり、軽くため息をつく。

「毎度毎度、コトノは惚れっぽいんだから……」

 どうやら、この反応はおなじみの行動らしい。

「では、デュオくん、しばらくはリサくんの隣の席を使ってくれ」

 先生の突然な指名に、リサが驚く間もなく、友人のコトノがまた声を上げる。

「ラッキー! めっちゃ近く! リサ、手を出したら許さないわよ!」

「出さないわよ!」

 反射的に答えるリサの隣に、デュオが歩み寄りニコリと微笑んだ。

「よろしく、リサ」

「なっ……羨ましいッ!」

 驚く間もなく、コトノがまたまた先に声をあげる。リサは見上げるように少年を見た。灰色の髪の下、赤く燃える瞳が楽しそうに笑い、その右手を目の前に出してきた。

「あ、うん……。よろしく、デュオくん」

 リサがおずおずとその右手に自らの右手を伸ばすと、デュオは思ったより優しく握り返してきた。隣でそれを見ているコトノの視線も感じながらも、リサの中には、不思議な感覚が沸いてきていた。

「へへっ」

 デュオは握手を解き、席に着いた。リサも放された右手を納めながら席を正した。

「うらやましい、握手まで……! 次は私もしてもらおっと!」

 隣でまたも友人が騒いでいたが、今度のリサは関心を示さなかった。

 一瞬、ほんの一瞬だったが、彼の目の色が変わったことに、リサは気付いていた。この人、ちょっと普通の人とは違う……。

 心の中にふつふつと沸く疑問と不安感を押さえるように、リサは息を吸い、授業の準備を始めた。




 ちょうどその頃――

 セイラン学校の事務室では、一人の職員が頭を抱えていた。

「おかしいなぁ……。昨日まであった書類、どこ行ったかな……」

 そう頭を抱えるのは、茶色の肌をして緑色の髪をした植物マテリアル種の女性職員だった。きょろきょろと机や棚を行ったり来たり、落ち着きがない。見かねて、もうひとりの職員が声をかけた。

「何をそんなに探しているんだい?」

 呼びかけられて、女性は頭をかきながら答えた。

「転入生の書類ですよ。入学手続きの書類、確かに昨日見たのに、今日見当たらなくて……。困ったなぁ……」

 その様子に、不思議そうにもう一人の職員も首をかしげていたが、お茶を一杯すするとあっけらかんと笑い飛ばした。

「ま、そうあわてなくても、そのうち出てくるよ、ははは……」

「だといいんですけど……」

 そんなやりとりをしている部屋のすみで、一枚の書類が煙のようにうっすらと消えているのだった。

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