第15話 真相
予想外だったのは、ペルソナだけでなく、シンもシンジもヨウサもだった。その重い扉の先には、すさまじい数の本が並び、全て古くから伝わる古文書や魔導書であることはすぐに分かった。それはいつも図書館に来ているヨウサにとっても見慣れた光景だった。
しかしいつもと違ったのは、その部屋に見慣れた人物が居たことだ。
「なに……!?」
「ええっ……!?」
「うぇえええ!? 先生ッ!?」
「じっちゃんまで!?」
ペルソナだけでなく、ヨウサも、シンジもシンも、その部屋に居た人物に目を丸くして驚きの声をあげた。
そう、まるで待ち構えたかのようにその部屋に居たのは、彼らの担当のレイロウ先生に、校長先生だったのだ……!
二人の先生の足下には、大きな緑色に光る魔方陣が見え、その中に二人は立っていた。恐らくは気配を絶つ、ガイの魔方陣と似た魔法だろう。驚く一人と子ども三人を見て、白ひげの老人がその陣の上で愉快そうにほっほと笑った。
「さすがのお主でも、このワシの術は見抜けなかったようじゃのう。話は全て聞いておったぞ、真犯人殿」
笑いながらも、その声には相手を刺すような鋭さがあった。白く豊かな眉のその下に、鋭い眼光を光らせながら、校長がペルソナを笑顔でにらみつけた。
「よくも、私のかわいい生徒達に怪我をさせてくれたな……!泥棒だけでなく、傷害事件の罪もあるからな!」
レイロウ先生が、怒りもあらわに声を荒げた。その隣で、校長が片手の杖を軽く持ち上げ、カツンと杖の下先で床を叩く。
その
「ふふん、思いのほかやりおるわ」
敵のすばやい回避の様に、校長がにやりと口の端を歪める。一方でペルソナは、床に片ひざと片手をつき、低い体制で構えていた。かすかに舌打ちする音がした。
「ちっ……分が悪いな……。予定外だが、今日は引かせてもらう」
言うが早いが、三人の子どもと二人の先生の目の前で、ペルソナの周りにぶわっと黒い風が起こった。
「フン、逃げおるのか」
三人はびっくりしたように眺めていたが、校長は気がついていたようだ。この風がワープの魔法であることを。校長の声に、ペルソナが逃げることを悟った双子が、動かない足を必死にひっぱり、振り向きながらペルソナに向かって叫んだ。
「待て! 逃げるな、
「石を返すだ! あれは学校のものだべ!!」
二人の叫び声に一瞬、ペルソナが笑ったように見えた。
もっともその顔は仮面であったし、表情は分からないのだが、二人にはなぜかそう見えたのだ。仮面をにらみつけながらそんなことを思っていると、男の声が響いた。
「……お前達の名を聞いていなかったな……。せっかくだ、覚えておいてやる」
予想外に、ペルソナがそんなことを言ってきた。二人は一瞬あっけにとられたが、すぐに相手をにらみつけると、強い声で言った。
「オラの名前はシン……『カンナ シン』だべ!」
「僕は『カンナ シンジ』だ。ペルソナ、絶対お前を捕まえてやるからな!」
二人が答えると、ペルソナはくっくと笑った。その姿は徐々に闇に
「『シン』に『シンジ』か……。フ……。覚えておくがいい、シン、シンジ……。私は必ず目的を果たす……」
そういい残し、闇に飲まれるようにペルソナの姿は風と共に消えた。まるではじめからそこに居なかったかのように。
フッと緊張の糸が切れ、ヨウサがへなへなとその場に座り込んだ。それに続けて今度はシンとシンジがよろめいた。動かなかった足が動くようになったのだ。
そんな三人の下に、レイロウ先生があわてて駆け寄ってきた。
「あ、先生……」
三人がほっとする間もなく、
「この大バカモンがっ! なんて無茶をするんだッ!!!」
すさまじい剣幕でレイロウ先生が叫び、がつんごつんと、双子の頭に鉄拳が落ちた。
「いたたたた……」
「ひどいだべ、先生! オラ達がんばっただよ~!!」
と、二人が頭を押さえてうめくと、先生は三人の前にしゃがんで、今度はその頭を大きな手で押さえながら言った。
「やっていいことと悪いことがあるだろ。こんな危ない真似はしちゃ駄目だ。先生、ほんとにほんとに心配したんだぞ」
先ほどまでの恐ろしい剣幕と違い、今度は優しくも心配そうな顔をしてレイロウ先生は言った。その表情に双子はうつむいた。
「ごめんなさい、先生……。先生に心配かけるつもりはなかったんだけど……」
「どうしてもオラ、アイツを捕まえたかったんだべ。オラ達の大好きな時計、壊されて黙っていられなかっただべよ……」
悲しそうにうつむく二人の頭をぽんぽんと叩いて、レイロウ先生は立ち上がった。
「お前達が犯人じゃないって、先生分かってたさ。お前達の気持ちは分かるし嬉しいよ。無事でよかった……。シンのやけどだけが心配だな」
そういって、ようやく
でもすぐに疑問が浮かんできた。
「でも、先生……。なんで先生と校長先生がここにいたの?」
ヨウサが不思議そうに首をかしげると、レイロウ先生はウインクして笑った。
「話すと長い。それは後でな。それに」
「まずはこの状況を何とかせねばならんしのう」
レイロウ先生の言葉を次いで、校長が笑った。その言葉に三人は周りを見渡した。冷静になって見てみれば、そこら中ひどい
「やれやれ、今回は大サービスだぞい」
そういって校長が、その杖の先をカツンと床に叩きつけると、みるみるうちに全て元通りになった。くだけたガラスは吸い込まれるように窓枠に張り付き、壁の焦げは煙と共に消え、床の水は蒸発するように消えていった。
一体どんな魔法を使っているのだろうと、三人が感心して見とれていると、校長がほっほと笑って続けた。
「この分のツケは、もちろん払ってもらうからのう。特に双子は、今日の放課後呼び出しておったのも、すっぽかしおったからのう」
「あっ……!」
校長のその言葉に、初めて思い出したらしい。シンとシンジは顔を見合わせ、舌を出した。
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