第5話 超古代文明

 魔術学校が始まって、一週間がたった。今日も四学年の太陽クラスは非常に明るく、笑い声が響いていた。今は四時限目、古代科学の時間だった。

「このように、今は魔力が全ての源だが、昔は「電気」と言うものが主流だったんだ」

 レイロウ先生が教壇に立ち、その隣にいろいろな道具が並んでいた。生徒達は一様に、それらの道具を何に使うのかと、身を乗り出して説明を聞いていた。先生はガラス製の球体に銀色に光る金属のしっぽが二つついた機械を取り出して見せた。ガラスの球体の中には、細い金属製の紐が丸まっているのが見える。

「たとえば、みんなが入学したての時、『ライト』の呪文を習っただろう? あれで、光を作ることができるよね。じゃ、試しに……ガイくん、やって見せて」

「……ぅあはい!」

 突然先生に指され、自分が当てられると思っていなかったらしいガイは、そんな返事をした。たちまちクラス全体にどっと笑いが起こる。

「ガイ……先生の話はちゃんと聞いてくれよ……。で、ガイはできるかな?」

 先生がちょっと苦笑いしながら話を続けると、ガイも苦笑をして返事をした。

「できま~す! 多分。……で、何するんですか~?」

 その言葉にまたクラスに笑いが起こる。

「ガイ、聞いてなかったんだべか?」

 後ろの席でシンが笑う。そのまたシンの後ろでシンジが笑う。

「いつも授業聞きながら、落書きしてるからだね~」

 シンジは笑顔でさらりときついことを言う。

 先生は頭を押さえながら、まゆをしかめ苦々しくガイに言う。

「まったく、今は『ライト』の話をしていたんだ。もういい、座りなさい。次当てる時にはちゃんと答えてくれよ。じゃ、かわりにフタバくん。『ライト』をやってくれるかな?」

「はい」

 先生の呼びかけに、銀髪の少年が立ち上がった。さわやかな笑顔で紺色のバンダナを片手で位置を直して立ち上がった。日焼けした、いかにも健康そうな腕を天にかざし、彼は呪文を唱えた。

ライト!』

 呪文とともに、彼のかざした手の上に、ひゅっと小さな光が集まり、ひとつの球状の光のたまになった。魔術の初学者なら誰でも最初に教わる、光を作る呪文、ライトだ。

「うん、さすがフタバくん、級長らしい見事な出来だね」

 先生がにこりと笑顔でほめると、彼は恥ずかしそうに頭をかいて着席した。その様子に、クラス中の女の子がきゃっきゃと騒ぐ。彼はその外見と性格の穏やかさから、女の子生徒に人気があるのだ。その様子を見て、悔しそうにガイがうなる。

「ううっ、ボクだって分かっていれば、カッコよくあれくらいできるのに~」

「ガイくんはいつも、授業まじめに聞いてないからよ」

 すかさず、シンの隣の席でヨウサがつっこんだ。

「いいだべなぁ、マジメに聞いててもオラにはあの魔法できなかっただ」

「僕ら、光系の魔法にはとことん向かないからねぇ」

 シンがぼやく後ろで、シンジが笑顔でため息がちに答えた。

 そんな彼らをよそに、授業は進む。

「さて、こんな風に今は明かりがほしいと思ったら、光系の魔法を使えばできるわけだ。お料理だって、炎の魔法でできる。だが、その昔には今のような魔力の発明がなかった。そこで、古代の人々は魔力でなく物質の法則から、便利に生活できないかと考えたんだ」

 先生はそこで大きな金属製の円柱の物を取り出した。大人の手のひらでようやくつかめるだけの大きなつつだ。筒の天井から、二つの角が飛び出している。先生はそれを見せながら話を続ける。

「これはデンチといって、この中で電気を作れる古代道具だ。中には特殊とくしゅな水と板が入っている。物質の働きによって、魔力を使わなくても電気が発生するんだ」

「雷みたいなものですか?」

 電気と言えば、雷系の魔力に長けるヨウサが興味津々だ。すかさず手を上げて質問してきた。先生はうーんとうなって、

「雷とは発生の仕組みは違うが、物質の力によって発生すると言う意味では近いかな。ただし、そんな自然環境はないし、雷とは比べ物にならない程とっても弱い力だ。人工的に作る環境なんて、そのくらいにしかならないんだね。でも、この当時の人間にしては、非常に大きな発見だったんだよ!」

 先生はそこまで言って、今度はクラス全体を見渡して、にやりと笑った。

「さて、私は『植物族マテリアル種』だということは、みんな知っているかな? マテリアル族は魔力が低い。しかも植物族の場合はなおさらだ。みんなは、この私が魔法を扱えないことはよく知っているね。だがしかし!!」

と、先生は先ほどのガラスの球体を高々とかかげて言った。

「今から呪文を唱えることなく、この球体の中に光を集めてみせよう!」

 生徒の好奇の目が集まる中、先生はその球体のしっぽを、その金属製の筒の角につないで見せた。しっぽの片方を右側の角に、しっぽのもう片方を左側の角に。すると……

「光ったぁ!」

 球体に光がともると共に、生徒達から歓声が上がった。先生は満足そうにほほえんで、その球体を持ち上げた。

「人工的に電気を発生させ、それをこんなふうに、光にできる装置を作っておけば、いつでも明かりが使えると言うわけさ。古代の人々も考えたものだろう? さて、今日はもう終わりだ。明日も楽しみにしていてくれよ」

 こんなふうに、毎回授業で笑いを起こしているのがシン達だった。クラスのみんなともなじみ、学校は非常に楽しいようだった。


 授業の後、シンたちは校庭でお弁当を広げていた。短く切りそろえられた草の上に座り、四人はお昼ご飯と一緒に会話を楽しんでいた。

「今日の授業は面白かったね。歴史とかあんまり得意じゃないから、苦手かなって思っていたのに」

 シンジが水筒のスープを飲みながらはしゃいで話す。

「そういえば学校のいろんな機械の装置って、レイロウ先生が関わって作ったんだって聞いたわ。私達の成績表とか学校のスケジュールって、魔導コンピュータで管理してるって聞いたもの」

 ヨウサがサンドイッチを食べながら話すと、その発言にシンとシンジは同時にへぇ、と感心する。一足先に食事を終えたガイは、草の上にごろんと横たわって、三人を見る。

「古代文明もおもしろいけど、超古代文明も面白いんだよ~」

「超古代文明?」

 ガイの発言に三人とも興味を示したようだ。身を乗り出して尋ねてきた。

「古代文明だけでもすげーのに、何だべ!? その超古代文明って!?」

 シンが勢いよくガイに食いついた。ガイはみんなに注目されて嬉しいのか、ニヤリと笑って起き上がった。草の上に偉そうにあぐらをかくと、もったいぶりながら話し出した。

「フフフ、そんなに知りたい~? しょうがないな~教えてあげるよ~。超古代文明っていうのは、その名のとおり、うんと昔の文明なんだ〜。レイロウ先生が言う機械の発明以前の世界って言われててね〜、一説では今の文明以上に強大な魔法があったっていわれているんだ〜。でもそんな文明、古すぎてほとんど残ってなくてね~。教科書にも触れられてないくらい、あいまいな文明なんだよ~!」

「え~、逆にそれって怪しい……」

 ヨウサがすかさずつっこむと、ガイはがくっと肩を落とす。

「そんなことないよ~! というか、怪しいって言うより、表の歴史に出てこないくらい存在がみんなに知られていない、謎が多い偉大な文明なんだよ~!!」

「でも、それってはっきりわからないんだから、嘘かも知れないわけでしょ? うーん……怪しい……。それに、大体知る人も少ない文明の話なんか、なんでガイくんが知っているのよ?」

 ガイの抗議もむなしくヨウサが疑う。ガイはちょっとごもごもしながらつぶやく。

「だってそうだって聞いたんだもん……。でも今の魔法よりずっと強力な魔法なんだよ~」

「今より強力な魔法かぁ……。一体どんな魔法なんだろう?」

 騒ぎ立てるガイをよそに、シンジがポツリとつぶやく。ガイはうなりながら答えた。

「詳しくはわからないけど、でも言葉を聞けばわかるよ~。今の世の中には存在しない言葉だからねぇ。魔法の仕組みも微妙に違うらしくてね~。今みたいな『呪文系』『数魔系』のような別け方じゃないとかどうとか…」

「ん~……。イマイチわかりにくいだべが……。要するに、今の魔法とは全く違うものってことだべな」

 話が難しくなって混乱したのか、シンはずいぶん大雑把な別け方で話を終わらせる。

「ま、カンタンに言えば、そういうことだよね……」

 ちょっと納得いっていないような、複雑な表情でシンジがうなずく。

「さぁ、もうご飯もおわったし、遊びに行くだべよ! 昼休みがなくなっちまうだべ!」

 シンは勢いよく立ち上がると、思いっきり背伸びした。シンジも「うん」と続いて立ち上がり、服についたほこりを払う。それを見てヨウサが軽くため息をついてつぶやく。

「まず片付けてよ~、シンくんいっつも片付けがいい加減で、お弁当箱もなくしちゃうんだからっ」

「わ、分かってるだべよっ!」

 シンはヨウサの発言に決まり悪そうに答えると、仕方なく後片付けを始めた。


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