第3話 入学式

 それから四人は講道館に移動した。今までシンとガイとヨウサの三人組トリオだったが、今度はシンジも入ってますますにぎやかになった。もっとも、シンジがシンの弟と知って、講道館への移動中、ヨウサはずっと落ち込んでいたけれど。

シンジはやはりシンと兄弟だからだろうか。ガイともすぐに打ち解けた。ヨウサも今になって考えてみれば、シンジとすぐに仲良くなれたのも、そういうわけなのかなと思った。

 講道館では静かに入学式が行われた。シンとガイとヨウサの三人は二階で出席していた。シンジはたくさんの入学生に混じり、一階の最前列で式にのぞんでいた。入学式の間、シンは珍しくおとなしかった。いつもは授業中や何かの式の最中、ガイと無駄話ばかりして怒られてばかりいるのだが、今回はずっとシンジの様子を見て黙っていた。久しぶりのシンジに会えて、気になって仕方ないのだろう。ヨウサはシンジの後ろ姿を見てはぁとため息をついた。さっきまでかっこよく見えていたのに、シンの弟と知ってからはイメージが変わってしまった。もちろん外見のさわやかさは変わらないのだが……。人の持つイメージとは、こうもその人の家族や友人、知人に影響されるのか……。

 かっこいい人、から友達へと意識が変わってしまったようである。


 さて、式も終わりに差し掛かると、校長が講壇に立った。入学式、そして始業式恒例こうれいの「クラス替え」発表である。

「いよいよきちゃったね~。今年もみんなと一緒だといいなぁ~」

いつもは毒を吐くガイも、このときばかりは真剣にそんなことを言う。なんだかんだ言って、彼らは仲がいいのだ。シンも手を合わせて真剣に神頼みをはじめる。

「シンジと同じクラスになれるといいだ~。最悪ガイは別クラスでもいいべから!」

「ひどっ! ボクも入れてよ~!」

 ガイがシンの言葉に反応して、シンにしがみつく。

「いや、駄目だべ! ガイが入ってシンジが抜けるなら、オラは迷わずガイを切るだ!」

「シンくん、そこまではっきり言わなくても…」

 見かねてヨウサがつっこむ。シンはそんなヨウサにも勢いよく振り向いてすかさず問う。

「ヨウサだって、隣の席になるなら、ガイよりシンジがいいに決まってるだべ?」

「え、そりゃまぁ……」

「みんなひどいよ~!」

 味方してくれそうな雰囲気だったヨウサにまで、そんな返事をされ、ガイは再び叫ぶ。情けない顔全開で、ガイはシンにしがみついて抗議している。そんなにぎやかさに、見回っていた先生が注意にきた。白衣に片眼鏡、緑の長い髪を適当に束ねた頭、去年古代文明の授業をしてくれたレイロウ先生だ。

「そこ、静かにしなさい! ……って、またお前らか」

 どうやらシン達はうるさい生徒としては有名のようだ。先生はあきれ顔で手を腰に当て苦笑して見せた。

「あ、ごめんなさい。レイロウ先生」

ヨウサがあわてて口をつぐむ。ガイはシンを指差して、先生に抗議する。

「だって、先生! シンがひどいんです!! ボクと同じクラスはイヤだって言うんです〜!!」

「え、ガイくん、イヤだとはシンくん一言も…」

ヨウサがつっこむその隣で、シンも先生に抗議を始めた。

「だって、オラの弟が入学したばかりなんだべよ! 心配で仕方ねーだよ!! シンジと別クラスになるくらいなら、オラは迷わずガイと交換するだよ」

シンが話し出したので、これは止めねばとあきれ顔で口を開いたレイロウ先生だったが、弟という言葉に反応したようだ。シンをなだめて質問してきた。

「ほら、三人とも静かにするんだ。……シン、弟が入学したのか」

「そうだべよ! ホラ、あの席にいる青い奴だべ!」

 先生の静かに、という忠告は耳に入らなかったらしいシンは、入学生の集団の列を指差す。先生はシンの頭を押さえ、静かにと再び注意し、その列を見る。ふんふんとうなずいていた先生だが、ふと少し難しそうな顔をした。

「……先生?」

 そんなレイロウの先生の様子にいち早く気付いたヨウサが声をかけると、先生ははっとした様子で答えた。

「あ、ああ、すまん。シンの弟は似てないんだな」

「似てるだべよ!! 先生ひどいだべ!!」

 すかさず食いかかるシンの頭を今度はなでて、先生は笑った。

「あはは、すまんすまん。ほら、静かに。もうすぐクラス別けの発表だぞ」

先生の言うとおり、壇上の校長先生が怪しげな行動を始めた。大人の上半身分くらいはある巨大なガラス玉が持ち出され、その中にふわふわとカラフルな光の玉が泳いでいた。校長はそのガラス玉をなでながら、全校生に向かって言った。

「セイラン魔術学校の全校生よ、おまちかねの今年のクラス別けじゃ」

 真っ白なひげに真っ白でふさふさな眉毛。その眉毛の奥に優しい目を細めながら校長は笑った。紺色のローブに金の刺繍ししゅうの入ったそでからは細く筋ばった腕が伸び、その水晶をなでるたび中の光が活発に動く。その光はおそらく校長の魔力でその中を飛び回っているのだろう。その光を見つめながら校長は続ける。

「今年は波乱万丈はらんばんじょうな年になりそうだからのう。クラスも相性を見て、決めることにした。各学年の先生方よ、まずはこの光を受け取ってくれ」

 校長の言葉に、水晶玉からいくつかの光が飛び出してきた。光は水晶玉を離れると、まるで風のようにすばやく各先生のもとに飛んでいった。その様子はまるで水晶から虹が分散したような美しさだ。思わず生徒達の間から感嘆かんたんの声が上がる。

「先生はオレンジだね」

レイロウ先生のもとに飛んできた光を見て、ガイがつぶやいた。

「さて、お次は生徒達の番じゃ。もらった光をなくすでないぞ」

 校長がにやりとほほえんでガラス玉の前に両手をかざした。校長が念をこめると、ガラス玉はカシャンと薄くくだける音とともに消えてしまった。それと同時に中で泳いでいた無数の光がくだけ散り、分散して、講道館全体に広がっていった。虹の降水のような光景に、生徒達は歓声を上げた。光はその子ども達の頭上を飛び回り、各々の持ち主のところへたどり着いた。講道館内が彩り豊かに輝いて、まるで昼間に星が瞬いているような光景だ。

「学年別にその指定のクラスに移動するのじゃ。今年はそのクラスでいくからのう。今年はますます楽しいクラス間違いなしじゃぞ」

校長は満足そうにそう言って、壇上を後にした。

 今の一瞬でたちまちざわついた講道館の片隅かたすみで、シンとシンジが光を片手に飛び跳ねて、お互いに光を見せ合っていた。彼らの手には同じオレンジの光が輝いていた。



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