№378

――保科さんの家族は、今回語り手をしてくれる長女と両親、そして妹の四人だった。その中で、父親以外の女性は全員霊感が強いそうだ。

 お母さんが色々教えてくれました。自分たちが見えているモノが、他の人には見えてない。あれは無視して良い。あれは絶対に目を合わせてはいけない。私も妹もそうやって自分の能力と付き合えるようになりました。

 私が高校三年生、妹が高校一年生の時に、家に女の幽霊が現れるようになりました。見たらやたら気が滅入る幽霊でした。目をつり上げ、口もへの字に曲げてすごく不機嫌そうにじっとりとこちらを見てくるんです。

 私は受験生だったので、出来れば関わり合いたくなかったんですが、私が移動した先にランダムに出てきて睨んできます。どこでどんなふうに遭遇するか、全然法則が分からない。幽霊って結構法則で動いてるんですよね。だから不思議でした。母は何か思い当たることがあるみたいで、

「ちょっと我慢してね」

 と色々動いてくれているみたいでした。

 そんな時に私は父が不倫している現場を見てしまいました。夏休みで、普段行かない予備校にも短期講習を取っていたので、父はうっかりしていたんでしょう。予備校の最寄りの駅で、女と腕を組んでいる状態の父と鉢合わせしました。女優のような華やかな女性は、わあわあと焦っている父にしなだれかかり、私をさげすむような目で見ていました。

 私はその日、講習に行けず家に帰り泣いていました。妹が心配して声を掛けてくれて、こっそりと打ち明けました。変な女の幽霊のことで苦労を掛けている母に、これ以上負担をかけたくなかったんです。

 妹は「何それ!」と怒りながら私の話を聞いてくれましたが、ふと思いついたように紙に絵を描き始めました。妹は絵が上手いんです。30分ほど掛けて、女の幽霊の顔を描き上げました。

 父が帰宅する前に、私は父にメールをしました。少し話したいと。これは妹の指示です。私は家から少し離れた喫茶店で父に「妹や母には言うつもりない」と伝え、「その代わり、これを彼女に渡し、お父さんの目の前で見てもらってほしい」とお願いしました。それさえ叶えば家庭はこのままだと。父は了承しました。これも全部妹の指示です。

 まあ、もうお気づきかも知れませんが、その幽霊は父の彼女が飛ばした生き霊だったんですよ。顔が違うから全然気付きませんでした。妹は何か感じたみたいです。彼女は妹の絵を見て発狂したそうですよ。なんで整形前の顔を知ってるんだって。父も彼女が整形だって知らなかったようです。それで冷めてしまった別れたようです。

 その後、すぐに両親は別れました。母もあれが生き霊だと気付いていたみたいで、父の身辺調査をしていたようです。ちなみに母には女の幽霊の奥にもう一つ顔が見えていて、それが整形後の顔だったみたいです。

 同じ「見えてる」でも全然妹や母には適いませんよ。だからあんまり「見えてる」って言いたくないんですよね。だって私、「ただ見えてる」だけの人ですから。

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