№377

 私、話すの下手だから、とりあえず生い立ちから話しますね。

 私が4歳の時に妹が生まれて、お母さんはずっとお母さんで、お父さんはたまに変わる感じの家族だった。それが普通じゃないって気付いたのが小学生の二年生くらいの時。

 一度「前みたいな優しいお父さんにしてよ」って言ったらお母さんに殴られたこともあったな。まあ、そういう家族。

 妹はほとんど私が育てたみたいな感じだった。大切にしてた。嫌なお父さんのときも、私が守らなきゃって、矢面に立って代わりに殴られたりした。

 それが嫌になっちゃったのが高校一年生の時。中学生の時は気付かなかった、自分のダサさに気付いちゃって。家庭環境のせいだとか、学校のせいだとか、社会のせいだとか、全部自分以外が悪いことにして、ちょっとキツメの反抗期になりました。まあ、グレた、ともいいますか。

 家に帰らなくなったし、学校には最低限しか行かなくなった。たまに妹から「帰ってきて」って連絡があったけど、「あんたのせいで、私は自由に出来ない」って酷いこと返してた。

 男の家でだらだらしていたとき、めずらしくお母さんから連絡があって、妹の様子が変だって言うんです。その時1ヶ月ぶりくらいに家に帰ったんだけど、妹は、なんか赤ちゃんみたいになってて、本当に変になってた。ずっと「ドレミ、ドレミ」って歌ってるだけ。親指を吸いながら。学校にももう通ってなかった。

 それから週1くらいに帰るようにして気付いたけど、私が帰らなくなって家の環境が今まで以上に劣悪になったみたい。その時のお父さんは、もうお父さんなんて言えないような男で、家、ぶっ壊しに来てるんじゃないかってくらい最悪な男だった。

 妹は私が帰ると小さい子みたいにまとわりついて、ニコニコしてた。本当は病院とか連れて行ったら良かったんだろうけど、医者にどう説明したらいいかとか、どこの病院行けば良いかとか、全然分からなくて・・・・・・。

 そうこうしてるうちに、私が妊娠した。赤ちゃんなんて全然ほしくなかったけど、出来たら嬉しいんだよね。相手が誰だか分からなかったけど。その時の男にはだまって、お腹の中でこっそり育ててた。妹には教えた。話せないけど、意味は分かったみたいで、私のまだぺったんこなお腹を優しくなでなでしてたよ。

 少し大きくなった頃、急にお腹が痛くなって、ぶっ倒れた。街中だったから救急車呼ばれて運ばれた。私、その時「やば、医療費かかるじゃん」としか考えて無かった。

 で、病院で先生にめっちゃ怒られた。ちゃんと診察受けろとか、知識つけろとか、そう言う話。言われるまで全然考えもしなかった。いわゆる野良新婦ってやつだったんだよね。

 退院して、家に帰ったら、妹が死んでた。

 死んでたから火葬場で焼いてもらったとしかお母さん言わないから、何があったのか聞いたんだよ。そしたら突然

「おねーちゃーん!」

 って叫んで泡吹いたんだって。それがちょうど、私が入院して処置してもらってるくらいの時。本当かどうか知らないけど。だって妹はしゃべれなかったんだし。

――その時、突然塀田さんの隣に座っていた女の子が「どれみ、どれみ」と歌い出した。

 この子、その時お腹にいた子。もう7歳だけど、これしかしゃべらないの。もしかしたら中身が妹かも知れないし、そうじゃないかも知れない。だけど良いの。今度はちゃんと傍にいようって思ってる。

――女の子はニコニコ笑い、また「どれみ」と歌った。

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