№376
――40年ほど前、今より個人情報などが緩かった時代の話だ。
学生だった私は、雑誌で文通友達を探していました。SNSなんてない時代ですから、自分の趣味の友達を探そうとするとそういう方法をとることがありました。
当時の雑誌には文通友達を探すコーナーがあって、そこに投稿したら名前と住所とどんな友達を探しているかという一文を掲載してもらえるんです。私はとある作家のファンで、学校の友達は理解してくれなかったので文通でも同じ趣味を語れる友達がほしくて募集しました。
雑誌に掲載されてから一週間ほどで一通手紙が届きました。一つ年上の男の子で、小さくて繊細な字が印象的でした。最初は「同性が良かったなぁ」なんて思っていましたが、意外と気が合い、多いときは週に一回程度やりとりがありました。
本の感想がほとんどでしたが、たまに私生活のことを書くことがありました。彼は家族とは折り合いが悪いと愚痴を言っていました。でも彼は家族と離れて一人で暮らしているような書き方でした。そんなに年が変わらないのに大変だなぁと、私は同情と尊敬の入り交じった感情を彼に抱きました。
文通が始まって1年くらい経ったとき、手紙が「宛所尋ね当たらず」で返ってくるようになりました。
心配になって募集した雑誌にイニシャルを載せ、尋ね人として掲載してもらうことにしました。雑誌に掲載されてすぐ、友達の姉と名乗る人から手紙が届きました。内容に私が知っている友達の個人的な内容が含まれていたので間違いなかったと思います。その手紙には「弟の手紙を見てみたい」とありました。その時は、本当に弟のことか確認したいんだろうと解釈していたのですが・・・・・・。
約束した場所に行くと母親くらいの女性が待っていました。結局姉ではなく親が来たのかと思ったんですが、頑なに姉だと言い張り、ちょっと怖くなりました。
待ち合わせ場所が駅の近くの喫茶店だったので、人通りも多く、いつでも逃げ出せると言う気持ちで話をしました。
彼はどうしているのか、と聞くと「死にました」とあっさりと返ってきました。もしかしたら・・・・・・とは考えていましたが姉の態度は酷く冷たいものでした。
彼からの手紙(もちろん全部ではなく見せても良さそうな物を厳選して持っていきました)を見せると
「またこんな低俗なことばかり」
と笑い飛ばすんです。私は段々と腹が立ってきました。
「本当に彼のお姉さんですか?」
と聞くと、投げるように私に手紙を出してきました。彼の字でした。ボロボロの紙に震える字で、友達への感謝の言葉と、お別れの挨拶が書かれていました。遺書です。信じられず、なんども読んでいると不意に取り上げられました。
「10年前に自殺したのよ。死んでから誰かに手紙を出しているって気付いて、こうやって調べて、あの子の文通友達に会いに来てるの」
そう言う姉の笑顔は今でも夢に見るほど恐ろしいものでした。
彼の生前は想像することしか出来ませんが、きっと彼は死んでも尚、自分の心を守れる場所を探しているんだと思います。
――藤本さんは今でも文通した手紙を大切に残しているそうだ。
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