№283

――東坂さんは高校生の時、写真クラブに所属していた。

 顧問の先生に憧れていたんです。それほどイケメンでは無かったんですけど、高い背をかがめて被写体を真剣に撮影している姿がかっこいいと思ったんです。もちろん秘めた思いですよ。他にライバルはいなさそうでした。だから、あんなことになってしまったんだと思います。

 部室には先輩達が置いていった作品が整理してあって、好きに見て良いことになっていました。先生は卒業生だったんで、昔の先生の作品も一冊のアルバムにまとめてありました。私はよくそれを眺めていました。

 ところで部室には言い伝えられている怪談がありました。単純な「昔校内で亡くなった女子高生の幽霊が出る」というものです。日当たりが悪くてちょっと薄暗い部屋なので、そんな怪談でも怖がる子は多かったみたいです。一人きりで部室にいたくないって。

 でも私は、ゆっくり一人で先生のアルバムを見たかったから、早く登校したときなんかは部室に足を運んでいました。だから、見ちゃったんです。幽霊。最初は光の固まりに見えました。不思議に思ってじっと見ているうちに、女の子の姿になっていきました。窓際で本を読む女の子。すごく綺麗な子でした。怖さは無くて、でもなんかすごい物みちゃってるなと見ていると、その子が持っている物が先生のアルバムだと気付きました。

 思わず「あ!」と声を上げると、その子はびくっと肩をふるわせ、消えていきました。そして女の子がいた場所にアルバムが落ちていました。

 そのアルバム、部室にあった物を幽霊が見てたのかと思ったんですけど、棚にはいつも見ているアルバムがあったんです。アルバムが2冊になっていたんですよ。

 私、嬉しくなって持て返っちゃったんです。だって先生のアルバム、ほしかったんです。部室にあるのは部員皆のものだし。

 その日は部室に行かず、まっすぐ家に帰ってアルバムを眺めていました。見慣れたアルバムでしたが、初めて幽霊の女の子が映っていたことに気付きました。写真に写っている幽霊は私服だったから気付かなかったんです。

 次の日学校に行くと、担任の先生から顧問の先生が急死したことを告げられました。事故とか病気ではなく、突然死と言われました。

 たぶん、あの幽霊が連れて行ったんだと思います。

 想像なんですけどね、あのアルバムは先生が生前彼女にプレゼントした物で、二人でこっそり同じ物を持っていたんですよ。二人は特別な関係だったんです。死んでもなお。

 私はアルバムを取り上げて2人の関係を壊してしまった。生きている人と死んでいる人の間を、アルバムだけで均衡を保っていたのに、それが崩れたから、先生は連れて行かれたんだと思います。

 アルバムですか? 私が持っていて良い物じゃないので、部室の棚に入れておきました。部員は皆、1冊増えていることに首をかしげていしたよ。

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