№282

 お母さんのお母さん、お婆ちゃんが見える人みたいです。

 ただ幽霊とかお化けが見えるわけじゃないんですよ。お金にだけ反応するんです。

 一番昔の記憶はお父さんが、何の理由でかお婆ちゃんに渡したお札をたたき落としたシーンです。小さかったのでどういうやりとりがあったか細かいことは覚えていませんが、

「汚い!」

 と叫んでお父さんの手をパシッと。お父さんは一瞬驚いた顔をしましたが、すぐに怒りの表情になり私は震え上がりました。それ以上にお婆ちゃんは怖い顔をしていて、二人は黙ってにらみ合っていました。

 そのことがあって、お婆ちゃんはお金が嫌いなんだなと私は長らく勘違いをしていました。

 でもよく考えたら、お年玉は普通にくれたし、私がこっそりお小遣いを貯金しているのを知っても何も言われませんでした。

 中学生の時私は道で財布を拾ったときに現金の一割をもらったことがありました。その時も咎められず、褒められたのでちょっとイメージと違うなと首をかしげていたんです。

 高校生の時、友達がお金に困っていたので1,000円だけ貸したことがありました。特に仲良くない子だったので考え無しだったなぁと今なら思いますけど。それは踏み倒されたりしないで1週間くらいで返ってきたんです。そのすぐ後、お婆ちゃんの家に行ったとき私の財布を見たお婆ちゃんが突然怒り出したんです。

「汚い!」

 って。あっけにとられているとお婆ちゃんは財布をひったくって1,000円を抜き、私に自分の財布から出した1,000円を渡してきました。

「こっちはお婆ちゃんが使うから、あんたはこっちを使いなさい」

 意味が分かりませんよね。お婆ちゃんもちゃんと説明してくれなかったし。

 それからお金を貸した友達が援交で補導され退学しました。私に返したお金もたぶんオジさんからもらったお金だと思います。

 そこから考えてみたんです。人から人に渡るお金は、その過程でさまざまな思いが込められる。お祝いや感謝だけでなく、援交みたいな下心や欲望なんか人の思念みたいな物がお金に付く事があるのかなって。お婆ちゃんにはそれを感じ取れる力があるのかもしれない。


 それで、最近お父さんがどんな仕事をしているのか分かってきたんです。

 会社員では無いとは知っていたけど・・・・・・お母さんは知っていて、たぶんお婆ちゃんに隠してる。お婆ちゃんが別ルートで知たって事は無いと思う。お父さん自身には優しいから。ただお父さんの持つお金だけは気に入らないみたい。

――秦野さんは両親から逃げようとこっそり準備をしているそうだ。

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