№284

――古部さんは手のひらから肘関節のあたりまで古い火傷の跡がある。

 小学生の低学年の時に自宅が火事で全焼しました。その時の火傷です。その時に見たものを、誰も信じてくれません。

 私は1人で留守番していました。父は仕事で、母は友達とランチに行っていました。宿題をしてしまったら、1人ですごく暇でした。兄弟もいなかったし、テレビは親が決めた番組しか見ちゃ駄目だったから、その決まりを真面目に守っていました。

 暇すぎて、炬燵で居眠りをしていました。どれくらい寝ていたか分かりませんが、突然肩を叩かれて、びっくりして目を覚ました。母が帰ってきたのかと思いました。でも、そこにいたのは知らない女の子です。

 今、外から入ってきたみたいに、冷たい空気をまとっている子でした。コートも着たままだったし。顔は覚えてません。でもずっとニヤニヤ笑っていて嫌な気持ちになりました。

 私が起きたのを確認すると、女の子は少し離れたところにある電気ストーブを勝手に点火しました。電気ストーブは私一人の時は点けてはいけない決まりでした。

「ちょっと!」

 私が焦って炬燵から出ると、女の子は可笑しそうに笑い、電気ストーブを力任せに叩きました。

 ガシャン、ガシャッって。

 着火したばかりとは言えストーブに触れたのも驚きましたが、女の子が叩くたび、ストーブから火の玉が飛び出し、壁や天井、カーテンに着火し始めたんです。それでもストーブを叩き続ける女の子を私は慌てて止めようとしました。でも手を伸ばした瞬間、新しい火の玉が飛び出して・・・・・・こうなってしまったんです。

 家中に広がった火も、どんどん大きくなっていきました。手は痛いし、熱いし、怖いしで、泣きながら玄関に向かいました。家を出る直前、振り返ると女の子は燃えていました。全身火だるまになって、高笑いをしていたんです。

 そこで煙を吸って、私は気絶しました。

 でも倒れたのが玄関でよかったです。手の火傷以外の怪我はたいしたことなかった。

 私は怖かった体験を泣きながら話しましたが、警察どころか両親にも信じてもらえず、特に母には責められました。お前がストーブを勝手に点けて、倒したんだろうって。

 母は母で子供を一人にしたことを祖父母や父から責められたみたいです。でも、私としては、見たものを信じてもらえなかったのが一番つらい。

 最近、自分でも本当に夢だったんじゃないかなって考えてしまうこともあります。でもそうなると細部の記憶が可笑しいんですよね。やっぱり、あの女の子はいたとしか考えられなくて。

 他にあの女の子に出会った人の怪談を知りませんか? 怪談を集めているあなたなら、知ってるんじゃないですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る