№280
小学生から中学生まで住んでいた街で、ひき逃げが多い十字路がありました。民家と市民公園の間にある道で、見通しは良いとは言えないので事故は起こるだろうし、あまりスピードを出さずに走っていたらちょっとぶつかったくらいだと気付かないのかも、と母は言っていました。子供だった私は「そんなもんか」と納得していたんですが、父はずっと首をひねっていました。
事故に遭った人は皆、怪我は擦り傷程度なんですが、頭をぶつけたようで気絶した状態で発見されています。たまにお年寄りが腰を悪くしてそのまま入院して出てこなくなったという話もありましたが、死人が出たという話はありません。
ただ中学生くらいで気がついたんですが、事故に遭った人は入院したご老人も含めて全員街から去っているんです。進学とか転勤という感じではなく、一家揃って突然いなくなるんです。なんとなく、大人達はそのことに触れないようにしているように感じました。
不信感からあまりその十字路に近づかないようにしていたんです。中学生から塾に通い始めたためその道を通ることが多くなりました。その時、ふと公園に目をやったとき見ちゃったんです。公園の木にぶら下がっている人。首つり自殺。
ぎょっとして数回瞬きをしたら、それは消えてしまいました。木の陰を見間違えたんだろうと最初は思っていました。
それから何度も首つりを見るようになりました。弟に頼んで一緒に公園に行ってもらいましたが、変なものはありません。弟も首つりや、それっぽいものは見てないようです。気持ち悪いし公園を気にしなければ良いんですけど、見ちゃうんですよね。一瞬なんで「今日は見えないかもしれない」って期待しちゃうんですよ。
で、何度も見ているうちに嫌なことに気付いちゃったんです。首つりが揺れてるんですよ。しかもどんどん振れ幅が大きくなってる。
塾は週に2回行っていたので、大体2ヶ月目の8回目くらいの日にそれは、もう回転するんじゃないかと思うくらい揺れていて・・・・・・。笑い事じゃ無いですよ。首を吊っているので、揺れるたびに首が伸びて頭と体がおかしな方向に曲がるんです。
体がすくんで、立ち止まってしまった瞬間でした。ブツンと縄が切れたんです。離れたところからでもそれは聞こえました。そして投げ出された死体が私の方に飛んできて・・・・・・。
気がついたら病院でした。私はあの場所でひき逃げにあったと言われました。実際は死体がぶつかってきたんですけどね。死体、というか、死人というか。
でも、何かおかしいんです。警察も先生も、親でさえも、「ひき逃げってことにしておけ」と圧を掛けてきている雰囲気で。弟は私が病院に運ばれたとき親に首つりの話をしてしまったそうです。でも途中で「その話はするな」と遮られたと。
結局回復してすぐ他県に引っ越ししました。親は理由を言いません。私ももうあそこには住めないと思います。今でも思い出すんです。飛んで来た死体が一瞬こっちに顔を見せて・・・・・・。
――根石さんは震えてそれ以上話せなくなった。
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