№274
――塚本さんは図書館でパートをしていたそうだ。
古い図書館です。あちこち改装して使いやすくはなっていますが、やっぱり天井とか棚とかは年季が入っていました。
私は棚の整理やカウンター業務を主にやっていました。棚の整理は返却された本を棚に戻す作業や、利用者が使って乱れた所を整えたりします。図書館の本は1冊1冊置くべき棚が決まっています。それである程度慣れてきたら間違った場所に入っている本を見つけることも出来ます。
その本はぱっと見てすぐに可笑しいと気付きました。絵本が文学の棚に刺さっていたんです。子供がいたずらしたんだろうと、絵本を抜くと抜いた隙間に黒い影が見えました。その図書館はスチール棚を主に使っていて、棚の反対側の通路も見えるんです。誰か通ったのかとその時は気にしませんでした。
また違った棚にある本を見つけたのは2,3日後だったと思います。家政学の比較的薄い本が並ぶ棚に厚い医学書が入っていたので気付きました。整理しようと引っ張ったんですが固くて抜けません。何か引っかかっているのかと思って横の本を少し出して引っ張ったら今度はすっと抜けました。そしてまた何かがすっと隙間から見えました。何か違和感を覚え、棚の反対側に行きましたが誰もいませんでした。
そしてその1週間後に、今度は日本の作家の小説の棚の整理をしていたときに、海外の作家の本が混ざっているのに気付きました。手に取って引き抜こうとしたら、また動きません。前回と違うのは、逆の方から引っ張られるような感触がしたんです。そう思った瞬間、するっと本は棚から抜けました。そして本と本の間から白い手がぬっと出てきて私の手首を掴んだんです。
今思うと振り払ったり、声を上げたら良かったんでしょうけど、その時は金縛りに遭ったかのように固まってしまいました。そして視線の端にまたぬっと何かが現れました。視線を上げると、棚の横板と本の隙間からもう1本手が伸びていたんです。それが私の顔を掴みました。冷たい手でした。ペタッと顔に張り付いて、その感触にようやく悲鳴を上げて逃げることが出来ました。
騒いだので館長に怒られた上に、何があったか話しても信じてもらえませんでした。手が出てきた棚、壁沿いに並んだ棚だったんです。つまり後ろに誰も立てない。
私はあの感触がトラウマになってすぐにパートを辞めてしまいました。その後にたまたま図書館で一緒にパートしていた人に会ったんですけど、その人も本を整理していたら何度も棚の後ろに気配を感じたと言っていて、私が見た物も信じてくれていました。というか本棚に一切触らない館長だけが私の言うことを信じて無くて、他の人は皆身に覚えがあったそうです。
――その図書館は今も街の隅っこにひっそりと運営されているそうだ。
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