№273
高校生の時に近所のスーパーでバイトをしていました。家から近く綺麗な建物だったのでそこに決めたんです。
品出しをしていたら突然叫び声が上がって、びっくりして見に行ったら店長が女性を押さえつけていました。女性はギャアギャア叫んでいて、店長は全体重を掛けているようで顔が真っ赤でした。すぐに他の店員さんが警察を呼んで女性は引き渡されました。それまでずっと叫んでいるのが怖かったです。
女性は万引きの現行犯でした。そういうのはもっと静かに捕まる物だと思っていたので驚きました。ドラマとかでよくある感じです。「ポケットの商品、まだレジ通してないね」「はい」みたいな? 見つかったら観念するか、開き直るか。まさか暴れる人がいるとは思わなくて。
小売店って多かれ少なかれ万引きする人が多いって働いて初めて知りました。本屋でバイトしている友達も、漫画とか鞄にパンパンに詰めて持っていこうとしたお客さんを見てショックで辞めちゃったんですよ。本好きな子だったから。
私も実際の現場を見て結構衝撃でしたが、それでも続けていました。週に1回そういうことがあれば慣れちゃうんですよね。
一度、友達が私の働いているところを見に来たとき、ちょうど万引きの現行犯逮捕を見てしまいました。一緒に帰るときに
「あれはヤバ過ぎない?」
と友達から言われました。万引きなんてあんな感じだろうと思っていたのですがあんなに暴れるのは見たこと言うんです。
「あのスーパーちょっと暗いし・・・・・・」
そこまで言って友達は口をつぐみました。私がバイトをしていると思い出したようでした。
それ以降、友達が何を言いたかったのか考えるようになりました。だからでしょうか、それが見えてしまったんです。
その日も品出し作業をしていたんですが、横を通り過ぎた買い物客の腕が多いように見えたんです。ぎょっとして顔を上げましたが腕は2本でした。気のせいかと作業に戻ったんですが、やっぱり気になってチラチラ見ていたら、ふと棚の前に止まったお客さんの背中から、ぶわっと腕が伸びてきたんです。千手観音? それって仏像でしょ? リアルだと本当に気持ち悪かった。腕はそれぞれ勝手に動いて棚に触って、それからすっと消えていたんです。その瞬間に店員がお客さんを取り押さえて、いつも通りお客さんが叫んで暴れて・・・・・・。
次の日に電話でバイトを辞めました。無責任だとは思ったんですが、店長も特に辞める理由とか聞いてきませんでした。
辞めたと言うと母は仕方ないよねと苦笑いしました。
「あそこ、近いけど気味が悪くていけないのよ。お墓を潰して建てたから、昔から住んでいる人は誰も行きたがらないのよ」
そんなのバイト始める前に言ってほしかったです。
――千葉さんが勤めていたスーパーはいまだに細々と経営を続けているそうだ。
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