№257
20年前の話です。当時私は小学6年生でした。
ある日、家庭科で使っている裁縫道具一式を学校に忘れました。宿題が出ていたんです。針や糸だけなら家にありましたが、授業で途中まで作っていた作品も同じ鞄に入れていました。
父に話すと、怒られながらも取りに行けと車で校門まで連れて行かれました。時間は夜の8時頃でした。当直の先生が一人いらっしゃって、父と頭を下げながら校舎に入りました。
先生の懐中電灯を頼りに3人で教室に向かいました。階段で3階まで上がると、教室2つ分先に女の子が立っていました。1年生か、2年生くらいの小さな女の子で、手には懐中電灯を持っています。
「あれ?」
と先生が呟きました。突然女の子は悲鳴を上げ、その場にしゃがみました。何だろうと思う間もなく突風が吹いて、隣にいた先生が吹っ飛びました。私が思わずしゃがむと、今度はさらに強い風が廊下を走り抜け私の頭上を通り過ぎるのが分かりました。振動していた窓硝子は弾け、父がとっさに私に覆い被さってくれたおかげで怪我なくすみました。しかし父は動かなくなり、焦った私は救急車を呼ぶために一階の職員室に行こうとしました。その時
「助けて」
とか細い声がしました。振り返ると懐中電灯で照らされました。女の子が私に助けを求めていたんです。怪我をしたのかもしれません。懐中電灯の光は定まらずゆらゆらと揺れていました。
それでも私は黙って階段を駆け下りました。正直あの場にいてまた風が吹いたらと思うと怖くてたまらなかったんです。
その後、救急車がやってきました。先生は脳しんとうを起こしていて、父は頭に傷を負っていました。重傷でしたが2人とも無事でした。
女の子は消えていました。いた痕跡も無かったようです。当時行方不明者もいなかったようで、そこは有耶無耶になりました。
私の娘は去年から私の母校に通っています。去年、夏休みに学校のイベントで肝試しがありました。一人ずつ懐中電灯をもって校舎の3階まで行き、6年生の教室で待っている先生に名前を言って帰って来るという簡単なものです。ですが娘が3階に行ったとき窓硝子が割れ、娘が怪我をしました。
先生が言うには、教室で待っていると廊下から悲鳴と硝子が割れる音がし、教室を出ると娘が怪我をして倒れていたそうです。しかし娘は教室に先生はおらず、天井に頭が付くほどの巨大なカラスを見たと言いました。驚いていると階下から懐中電灯の光がやってきて、助けを求めようとしたらそのカラスが飛び暴れだし、廊下の硝子が割れた。廊下にいた二人は倒れたが、一人の影が走り出したから助けを求めたけど行ってしまったと。
通報したのは教室にいた先生で、他に人影は誰も見ていないし、該当する人は名乗り上げなかったので娘が見間違いをしたと思われました。巨大なカラスの話もあったので。
そんなことより、私は昔の私の体験と一致することに驚いています。というより怖いです。もしあの時知らなかったとは言え娘を見捨てて逃げたのが私だと気付かれたら・・・・・・。
――粟田さんは自分が小学生の時の写真は全部処分したそうだ。
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