№256

 大学に入って飲み会にはまりました。お酒を飲むのも楽しかったし、普段話さないようなことを酔うと皆話しだして面白かったのもあります。

 私はそこそこお酒は強い方で、酔っても記憶はあり、それなりに感情のセーブもできます。酔っ払った人を介抱することもあったので、先輩からも頼りにされて、呼ばれる事も増えました。

 その日参加した飲み会はOBOGもいる大規模なものでした。知らない人も多く、先輩に紹介してもらったり自分で話しかけに行ったり・・・・・・そうしているうちに急に眠たくなってきたんです。初めてのことで、ふらふらと壁に寄りかかっていたら誰かに声を掛けられました。

 そこで一旦意識がなくなりました。

 気がついたら自動車の助手席に乗っていました。お酒を飲んでない誰かが送ってくれてるのかと思って運転席を見ると、知らない女性が運転していました。私が目を覚ましたことに気付かず、運転に集中しているようでした。集中というか、必死になっていると言った方が正しいかもしれません。

「失敗した。失敗した」

 彼女はそんなことを呟いていました。外を見るとすごい勢いで景色が流れていきます。何キロ出てたのかわかりません。怖くなって「止めて」と言おうとしましたが、声が出ません。体も金縛りになったように動きません。

 彼女は殴るようにクラクションを鳴らし、さらにスピードをあげていきます。私はようやく喉の奥から蚊の鳴くような声を絞り出しました。

「やめて、死んじゃう」

 意外なことにそれを彼女は聞き逃しませんでした。私を振り返り冷たい声で言い捨てました。

「そうよ、死ぬのよ」

 その瞬間、目が覚めました。多くの人が見下ろしています。私は飲み会の会場でぶっ倒れたようでした。

「いつもは、こんな酔い方する子じゃないんです」

 と先輩がフォローしてくれていました。私が目を覚ました事に気付くと

「大丈夫? 今日は体調悪かった?」

 と心配してくれました。私も先輩の顔を見てホッとしましたが、突然胸が苦しくなって嘔吐しました。悲鳴が上がり、先輩が見たことないくらいうろたえました。酷い頭痛が迫ってきて視界が薄れてきました。寝ながら床に吐き出したものは真っ赤な血でした。そして体を押しつぶされるような圧迫感に襲われ、私は絶叫しました。

 また気を失い、次に起きたときは病院でした。私はあちこち骨折をしていました。医者は交通事故に遭ったと思っていて、ただ酔ってぶっ倒れたというと驚いていました。先輩も私がただ突然床に倒れたところしか見てなくて、どうしてそんな大けがになったのか見当が付かないそうです。

 車に乗っていたのは現実では無かったと思います。でもただの夢でもない気がしてます。運転していた女性、先輩が飲み会で撮った写真に写っていました。ただ先輩も知らない人で私も会場で見た記憶がありません。

 先輩が飲み会にいたOBOGに聞いて回ってくれたそうですが、誰も知らないみたいなんですよね。

――鷲尾さんはこれから久しぶりの飲み会に参加だと、嬉しそうに帰って行った。

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