№243

――いわゆる自殺の名所と言われる場所で比嘉さんが体験した話だ。

 何しに行ったて、当然「自殺」ですよ。勝手ですが人に死んでいるところを見られたくなかったので、人があまり立ち入らない森林だとそのまま自然に返るんじゃないかなって。まあ、いろいろとおかしくなっていましたね。

 森林をなんとなく歩いていたら、躓いて動けなくなりました。首を吊る予定でロープも持ってきていたんですが、このまま餓死かなと考えて地面の苔を眺めていました。

 そのまま寝たような気がします。気絶だったかもしれないけど。目を開いたら人がいました。普通の人じゃないです。大男でした。裸で毛深くて、僕の頭なんか一口で食べれそうなくらいの大きさの。なんかじーっと僕を見ていて、僕と目が合うとなんか納得したようにウンウン頷いて僕を担いで歩き出しました。僕はされるがままです。

 怖かったんですけどね、死に際の幻覚かもとかちょっと考えてました。その間になんか巣のようなところにつきました。折れた木とか、岩とか、草とか、そういうのが良い感じに配置してあって、ここでこの男は生活してるんだなぁと。

 僕はその枯れ草が積んである場所に下ろされ、しばらく男と暮らしました。水や、木の実や肉を持ってきてくれるんです。肉は焼いてあることもあったから、火が使えたんですよね。ウサギとか鹿とかを捕まえて、吊して、血を抜いて食べていました。男は何もしゃべらないし、最後まで感情とか分かりませんでした。でも悪い人ではないんだろうなと思っていました。

 1週間くらいして大男が担いできた物を見てぎょっとしました。人間でした。死体です。見ていると男は他の動物の横にそれを吊しました。元々首に縄が付いていたようです。大男は吊したままその人の服を剥ぎ、靴を脱がし、他の動物と同じように「処理」しはじめました。その間に僕は逃げ出しました。追ってきてたかは分かりませんが、意外と近くに舗装された道があって、ツアーの集団と合流、保護してもらいました。

 たぶん大男は僕を食べようとして育ててたんだと思うんですよ。男は吊っている肉は食べる。だからあそこで首を吊ってたら食べ物に見える。人も食う。僕はガリガリで食べるところがなかったから、ちょっと太らせてから吊そうと考えてたんじゃないですかね。

 そう考えると、あの場所で死んだ人が全員自殺じゃなくて、一部は大男の保存食じゃないかなって。考えすぎですかね?

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