№241

 俺はお見合いで結婚しました。お相手は母がお世話になっている方のお嬢さんす。正直言うと結婚願望もなく、期待もしていなかったんですよね。

 彼女の第一印象は最悪でした。というかその日1日最悪な気分にさせられました。ずっと俺をにらんでいて、話しかけても鼻で笑うんです。初対面の人間に、しかもお見合いという席でこんな態度を取れるのかと気味の悪さも感じました。

 俺は帰ってすぐに母からお断りの連絡を入れてもらいました。が、何故かあちらが渋るんですよ。母が聞いた話だと、彼女はとても楽しい時間を過ごせて是非またお会いしたいと、縁談に乗り気だったそうです。

 話が食い違い、両方とも混乱してしまったため、一応もう一度会ってみて確認することになりました。

 当日約束の場所で待っていると、彼女がやってくるのが見えました。確かにお見合い相手なんですが、なんか違うんです。雰囲気というか、立ち居振る舞いというか・・・・・・。彼女の方も俺を見つけて驚いた顔をしました。お互いお見合い相手と同じなのに何か違う、という違和感を覚えていました。

 彼女はお見合いの日、趣味の話や最近のブームについて楽しく話したそうです、俺と。確かに彼女が言っていることは俺に当てはまっていてるのですが、それに関して俺は馬鹿にされた記憶があります。ここでも混乱が生まれました。

 しかし話を聞いていると彼女の俺に対する第一印象が、子供の頃に他界した父親と一致するんです。お見合いの中で見せた癖なんかも。もしかして死んだ父が俺に憑依していた? とか思いついたので、彼女に彼女の第一印象を話してみました。彼女は一瞬固まりましたが、それは病気で亡くなった彼女の親友っぽいとのことでした。気難しくて男嫌いだけど、幼なじみで仲が良かったと。

 俺たちはそれぞれ、心配して降りてきた父や親友の姿が見えていたのかもしれない、という結論がでました。お見合いで話すことではないし、こういう話を嫌悪する人もいるでしょうが、何故か俺たちは話をする内にこの結論に納得することが出来ました。そしてこのことが切っ掛けで、仲良くなり結婚に至りました。

 でも最近彼女の過去を知りました。彼女は長く付き合っていた女性がいたそうです。その人との縁を切るために、俺とお見合いしたと。

 彼女の元カノが俺の勤めている会社に手紙を送ってきたことで、知ることとなりました。そう、元カノ、生きているんです。手紙によると元カノはいまだに彼女に執着していて、どこで見ているのか俺たちの生活についても近くで見ているようなことが書かれていました。

 そうなるとお見合いの席での一件が全く違う物になります。彼女に病気で亡くした友達はいませんでした。そして今でも元カノは俺を恨んで、俺たちを見張っています。

――野上さんは彼女を守りたい気持ちと、平気で嘘をつかれた不信感に板挟みになっているそうだ。

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