№219
小学校を卒業するときにタイムカプセルを埋めました。内容は未来の自分への手紙です。私は卒業後、すぐに引っ越すことが決まっていたので、たぶん自分でタイムカプセルを開けることはないと予想し、私だけ未来の同級生や先生への手紙を書いたと記憶しています。
あれから20年たって、仕事関連で雑誌に載ったことがありました。その業種の人しか読まないような雑誌なんですけど、同級生が見つけて会社経由で連絡をしてくれたんです。それからプライベートで何度かメールのやりとりをし、
「来月タイムカプセル開けるよ」
と教えてくれました。同窓会の予定があると。
そして次の月には思い出の地に立っていました。最寄り駅で同級生と待ち合わせし、学校に向かいました。その道中で感じていたのですが、街がなんとなく寂れているのです。昔はもっと賑やかだったと思う、と言うと同級生はなぜか苦笑いしただけでした。
学校に着くと誰もいませんでした。同級生曰く「二人しか来ない」と。私たちの他に二人来ると言うことではなく、私たちだけだと。同級生はそれ以上何も言わず、黙ってタイムカプセルを埋めている場所を掘り始めた。私は手伝った方が良いのか悩んでいましたが、ものの数分で「あったよ」と同級生が言ったので穴をのぞき込みました。タイムカプセルは一抱えほどの四角い缶です。それが周りの木の根っこにガチガチに縛り付けてありました。結構太い根が這っていて、切るのも素人には無理そうでした。
「ひどいなぁ」
と言うと、同級生は
「君がやったんだろう」
とあきれたように言ったんです。そして私に手紙を渡して、振り返らず去って行きました。手紙は私がタイムカプセルに入れたはずの物でした。タイムカプセルは根っこにがんじがらめにされているので、取り出せるはずはありません。入れ忘れか? と不思議に思いつつ開いてみました。
手紙には同級生全員と教師に対する恨み辛みが書かれていました。そのときわっと忘れていた記憶が戻ってきたんです。
私はいじめから逃げるために引っ越ししたんです。いじめのことは両親に黙っていました。受験して地元の中学校を避けようとしましたが、勉強を邪魔され、塾でまで嫌がらせをされ受験に落ちてしまいました。でもそのタイミングで父の転勤が決まり、単身赴任するところを土下座して連れて行ってもらいました。父も娘につむじを見せられ驚いていましたが、何かを察してくれたようです。母も父に説得され、一緒に転勤について行くことになりました。
その後の生活が楽しすぎて、いじめられ生活とのギャップがありすぎて、私は記憶に蓋をしていたんだと思います。
――渡海さんが後に調べたところ、一緒に卒業した同級生、当時の担任は若くして亡くなっているか、病気で長期入院をしていたそうだ。帰る間際、渡海さんは付け加えた。
そうそう、タイムカプセルを掘ってた人、同級生かと思ってたんですけど、よく考えたらあんな人いなかったんですよね。誰だったんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます