№175

 怖い話を買い取ってるんですか? そんな職業もあるんですね。怖い話というか、不思議な話ならありますよ。

 高校生の時に両親が交通事故に遭い他界しました。当時僕は高校生、妹は中学生でした。まだ子供だったので親戚の大人たちの力を借りてなんとか葬儀やら相続なんかを済ませたんですが、いろいろ落ち着いた時に、僕たちを引き取ってくれるという父の弟に当たる人が二人きりになったときにこっそり僕に話しかけてきたんです。「いつの間に再婚したんだ?」と。どういうことか聞き返したら言いにくそうに、僕の本当の母親は僕を産んですぐに産後の肥立ちが悪く他界し、それから父一人で育てていると親戚一同は思っていたという話をしてくれました。僕は両親が再婚とは知りませんでした。叔父曰く、戸籍から妹は母の連れ子で父の養子になっていたそうです。だからといって叔父は差別せず妹も僕も養ってくれました。しかし妹は母から聞いたのか、何故か自分が養子だと知っていて叔父の家は居心地が悪かったようです。両親の遺産で高校を出ると就職して出て行きました。それから5年くらい、たまに連絡をするくらいだったんですが、ある日「ちょっと一緒に住まわせて欲しい」と言ってきました。勤めていた会社をクビになったと。一体何があったんだと、急いで指定された場所に迎えに行くと、なんと妹は赤ん坊を抱いていたんです。僕は独り身だったので、一緒に住むことも援助することも問題はなかったんですが、妹は娘の父親については一切明かしませんでした。あれから10年くらい経ちますがいまだに3人で暮らしています。妹の子供は、昔の妹にとても似てきました。妻も、母とそっくりです。叔父は僕たちが一緒に住んでいることを知りません。あまり心配させたくないので。なんか、あの頃の両親と同じような生活をしているなと不思議に思うことがあります。そういえば近所の人には僕らが夫婦だと思っている人も多いんですよ。


 あ、そろそろ時間なので行きますね。今日は妻と娘と一緒にレストランで食事をする約束なんです。

――元木さんはそう言って去って行った。自分の言葉のゆらぎには気づいていないようだった。

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