№174

 5年前のことです。父が早朝に突然俺を起こして、車に乗せたんです。ほとんど寝ている状態で助手席に乗せられて、言われるがままシートベルトをしました。ぼんやりしながら、あれ? 今日って平日じゃなかったかなって気づいて、そういえば俺、パジャマのままだとか、学校に送ってくれるかなとか考えているうちにどんどん目が覚めていきました。時間は5時くらいだったと思います。車も少なく、父はすいすいと車を運転していましたが、顔はなんとなく険しかったんです。だから「どこに行くの?」とも聞きづらくて。そうしているうちに山道に入りました。山もどんどん深くなっていきます。流れる景色を眺めていると木々の間からキラっと何かが光りました。はじめに光ったのを見たときは大きな建物があると思いました。窓ガラスが光っているのだと。でも何かおかしいんですよ。車はすごいスピードが出ているのに、ガラスはどこまでも続いているんです。直進しているので、同じところを通っているわけではありません。しかもガラスにしては、透明感がなくて・・・・・・。それ、目玉だったんですよ。おかしいですよね、窓くらいの大きさの目玉って。そう気づくとしわしわの老人のような焦げ茶色の肌とか、かぎ鼻とか、どす黒い口が一緒に追いかけてきているのが分かりました。思わず「父さん、外・・・・・・」というと父は「黙れ!」と遮ってきました。その時、山道が切れました。視界が開け、車が浮きました。「あっ!」と父が横で叫んだのが聞こえ、すぐに衝撃がきました。そして次に目が覚めたとき、俺は逆さまでした。車は崖から真っ逆さまに落ちたんです。俺はなんとか車から出ようとしましたが、シートベルトが外せなくて・・・・・・焦ってガチャガチャいじっていると余計に頭に血が上ってきて、ぼーっとしてきました。するとガラスみたいな目が外から覗いてきたんです。全身茶色の一つ目の巨人・・・・・・なんか今でも夢かどうか、本当にあんなのが居たのかどうか・・・・・・でもそいつが俺を車から引きずり出してくれたんです。ぼんやりと見上げているとそいつは俺の匂いを嗅いで、「ゲーッ」と嘔吐くと山の中に帰って行きました。父はそれから行方不明です。車に血痕が残っていたそうなんで、落下したときに放り出されたと言われています。母は今では元気ですが、事故のすぐ後は俺を見るたびに泣いていました。何故父があんな行動を取ったのか、母にも分からないそうです。遺書もなく、死ぬ理由も見つからないから事故とされましたが。父の行動とあの巨人、何か関係があるのでしょうか。

――今でも芽野さんのお父さんは、遺体すら見つかっていないそうだ。

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