№176

 子供の頃は生きている人間と変わらないくらいはっきり幽霊が見えていました。幽霊が見ていると分かったのは小学生の時です。そう理解すると、感覚的に見分けられるようになりましたが、まだ警戒心なんて沸きません。小学校なんて変なモノがたくさんいて、皆気づかずに一緒に遊んでるんですよ。そのことを言っても「何言ってんの?」って感じで。あれは母校が特殊だったのか、他の学校もそうなのか・・・・・・。学校の外に行くイベントの時だけ現れる子がいたんです。皆集まって、整列して、さあ行こうってときに「ついていっていい?」って聞いてくるんです。そして先生の誰かが必ず「ダメだよ」って小さい声で答えて、それを聞くとその子はすごくがっかりした顔で校舎に戻っていくんです。小1の時に見たときは違う学年の変な子が駄々をこねてるんだと思っていました。でも毎回、毎年現れるから、小5の時に「ダメだよ」と答えた先生に「あの子、何?」って聞いてみました。その時は担任の女性教師でした。先生はびっくりした顔で僕を見て、それからにっこりいつも通りに笑うと「大丈夫、ああ言っておけばついて来ないから」と微妙にはぐらかしました。翌年、修学旅行直前に担任が倒れました。担任は前年から変わらず同じ先生です。その日の晩、入院中の担任から電話がありました。先生はちょっと辛そうな声で「修学旅行に行く日、あの子に『ダメだよ』って答えてあげて。今、あの子が見える教師は私だけなの。あなたしか、返事が出来ないの」と僕に懇願してきました。なんか、とても怖かったです。一体何を頼まれているのかって。でも「嫌」とも言えない雰囲気だったので「わかりました」と答えて電話を切りました。そして修学旅行当日、やっぱりその子は現れました。「ついていっていい?」と。僕以外誰も反応しません。僕が振り返るとその子は嬉しそうに笑っていました。上手く言えないんですが、肌質とか、目の輝きとか、返事を待つ仕草とか、どことなくちぐはぐで、奇妙な雰囲気をまとっていました。でも大きな旅行鞄を持って、真新しい靴を履いて、首から子供携帯を下げているのを見たら「この子も修学旅行楽しみにしてたんだな」と、親しみがわいてしまったんです。僕はつい「いいよ」と返してしまいました。するとその子はスーッと煙みたいに消えてしまいました。僕は先生との約束を破ったものの、特に何もなく消えてしまったので、大したことないかとすぐに忘れて修学旅行を楽しんでいました。そして最終日、同級生の一人が突然いなくなりました。旅館でお風呂に入ったり、食事をしていたときだと思います。同じ班の子らが気づき、先生に相談して、結局警察にも言ったけど・・・・・・。その後一度だけ退院した先生から「何か気づかなかった?」と聞かれました。僕が何も言えずにいると、何かを察したのかそれ以上は聞いてきませんでした。もちろん事件と幽霊は無関係かもしれませんが。

――八尾さんは今では全く見えなくなってほっとしているそうだ。

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