№162

 子供の頃はよく図書館に行っていました。活字中毒と言いますか、常に何か読んでいないと気が済まない子供でしたので、限度いっぱいに借りて、期限内に全部読んで返しに行ったときにまた借りてと、ヘビーローテーションだったので節操なくいろんな本に手を出していました。そんなことで面白かった本はともかく、面白くなかった本はほとんど覚えていないのですが、その本のことだけは覚えています。小説で、あんまり面白くなかったんですが、主人公が私と同姓同名で、年齢も同じだったので印象に残っていました。それは一人の女性の一代記みたいなもので児童書だったはずなんで、偉人の伝記だと思って読み始めたら違ってがっかりしたんです。

 その主人公は大学まで順風満帆だったけど学校やバイト先の人間関係がうまくいかず、どちらもやめて親の友人の仕事の手伝いを始めました。そこでも人間関係に悩み、結局職場で出会った男性と駆け落ちして、結婚。お金もないのに子供が出来、夫婦仲は最悪で結局離婚して、シングルマザーになりました。その時就職した会社が良いところで、主人公は助けられつつ成長すると・・・・・・まあ、ベタな苦労譚で、なんでこれを小説にしようと思ったのか、当時首をひねりました。しかし成長するにつれて気づいたんです。あれは私の話だったと。進学するたびに見たことがある名前の友人が出来、大学もいくつか受けた中で小説にあった大学と同名の大学に進学することになり、それからどう抗っても物語の流れからは逃れられず・・・・・・。気づいた時にその本を借りた図書館に行って探したんですが、タイトルも作者も覚えておらず、あらすじから司書やネット、出版社にも頼りましたが見つかりません。子供の私が考えた妄想だったんでしょうか・・・・・・妄想だったらもっと言い人生を考えたら良かったのに・・・・・・。いえ、今は十分幸せです。ただ、気になるんです。あの小説の最後がどう終わっていたのか。「それから幸せに暮らしました」で終わってたんでしょうか。それとも・・・・・・。

――二市さんはいまだに彷徨うように本を探している。

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