№145

 大学の先輩で霧島さんという人がいます。この人がまたすごいアグレッシブな人で、多分家にいることなんてほとんどないんじゃないかな。春は花見、夏はバーベキュー、秋はハイキング、冬はスキー・・・・・・みたいな感じで年中遊び回ってる人です。しかも仕事も自営でばりばり稼いでて、俺たち皆の憧れの存在です。そんな霧島さんが数年前から心霊スポットにはまりだして。理由が昼仕事した日は夜しか遊べないから、夜出来る遊びを探したら肝試しだった、って。本当にいつ寝てるんだか。俺も何度か連れて行ってもらったことあって怖いこともちょっとだけ体験してるんです。ただ懐中電灯が勝手に消えるとか、後ろから足音が聞こえる気がするとか、後で言葉にしてみると怖くないし、ありがちなんですよね。その瞬間はめちゃくちゃ怖いのに。霧島さんは幽霊とか信じない人らしくて、そういうことがあっても俺たちと違って全然動じません。でもなぜか霧島さんが撮る写真とか動画には必ず何か変なところがあるんですよね。写真にオーブとか、動画に知らない笑い声とか。本当にどこか行くたびに毎回何かしら撮ってくるから、俺たちも楽しくなって「あの心霊スポットに行った」と霧島さんが言うとすぐに写真や動画をねだるようになっていました。霧島さんもそんな俺たちのために行ってる節もあるんだと思います。

 でも、2ヶ月くらい前から新型ウィルスがえらく広まって、さすがの霧島さんも最近遊びに行かなくなったんです。自営業を在宅で運営できるようにして、ずっと家にこもるようになって。霧島さんは独身だからそれがめちゃくちゃ寂しいらしくて、俺たちとテレビ通話でつないで飲み会を開いてくれたんです。まあ、俺たちも独身で彼女もいないから喜んで参加したんです。それぞれ好きなものを食べて飲んで、ってしていたら画面の向こうで霧島さんが飲み足りなかったらしくて「酒買ってくる」って出て行ったんですよ。その時すーっと白い影が後ろについて行くのが見えたんです。俺だけじゃなくて他のメンバーも見ていて「あれ何?」って変な空気になりました。でも霧島さんに「何か憑いてません?」って聞けるわけもなく、皆黙っていたら帰ってきた霧島さんが「どうした? 盛り下がってんな」と言いました。そのすぐ後に女の子の笑い声が聞こえてきました。「誰か家に女の子いる?」と聞くと皆、首を横に振り霧島さんだけが「なんで?」と不思議そうにしていました。霧島さんだけ笑い声が聞こえなかったそうです。次の日、メールでも相談できる霊媒師さんに霧島さんからもらった写真や動画を送って鑑定してもらいました。全部同じ女の幽霊だそうです。心霊スポットに行ったから撮れたんじゃなくて、霧島さんが連れて行った霊が映り込んだようです。これ、霧島さんに伝えた方が良いんでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る