№144

小学生の時に骨折して1ヶ月近く入院していました。腕を固定していましたが、それ以外は元気だったので病棟を歩き回っては怒られていました。同じ病棟にAちゃんという子が入院していました。年も近くて可愛かったAちゃんと私はすぐに仲良くなりました。Aちゃんは私よりも前に入院して先に私が退院していたんできっと重い病気だったんだと思います。私が退院してからは、何度か遊びに行きましたが春先になって病棟が代わってお見舞いできないと言われ、手紙だけ看護師さんにお願いしていました。結局夏頃にやっと1通返事が来ましたが、それはAちゃんのお母さんからで、Aちゃんが亡くなったこと、ずっと集中治療室にいて会わせてあげられなかった謝罪、そして仲良くしてくれてありがとうというお礼が丁寧に綴ってありました。その頃のことはよく覚えていません。母は私がずっと泣いていたといっていますが、私はぼーっと何もしてなかったように思います。ただ徐々に日常に戻り、たまにAちゃんを思い出し懐かしむくらいには回復しました。

先日大学の友達が怪我をして入院しました。私は他の友達と一緒にお見舞いに行きました。数年前に出来た広くてきれいな病院です。私はお見舞いの途中で1人席を立ってお手洗いに行きました。用を済ませて化粧室から出ると、病院はしんと静まりかえっていました。もちろん病院では静かにしないといけませんが、それは異常な静けさでした。人がいないんです。気配もなくて、思わずナースステーションをのぞき込んだり、他の病室を覗いてみたりしました。そのときパタパタと足音がして、パジャマを着た小さな男の子がふらふらと私の前を横切りました。男の子の向かう先にも女の子が立っていました。その子はゆらゆらと手を振り男の子を招いています。それを見て背筋が冷たくなりました。よく分からないのですが男の子が死んでしまうと思ったんです。私は慌てて男の子を抱き留めました。すると女の子がぞっとするほど恐ろしい顔でにらんできたんです。でもふとその顔に見覚えがあることに気づきました。「Aちゃん……Aちゃん?」私は自分で言ったことに驚いて口に手を当てましたが、女の子もはっとして、ふわっと黒い霧のようなものになって消えてしまいました。その瞬間周りの音が戻ってきました。その急激な変化に眩暈を起こし、情けないですが気絶してしまいました。ちなみに私が抱き留めた男の子は無事で私の腕の中でぽかんとしていたそうです。後から聞いた話によると、あの病棟は元々小児病棟で、何故か子供の怪我が多く、場所を変えたんだそうです。でもたまに迷い込んだ子供が怪我をするとか。Aちゃんは成仏してないんでしょうか。でも不思議なんですよね、Aちゃんが入院していたのは全然違うところに今でもある病院なんですよ。どうしてあそこにいたんでしょうか。

――柿本さんは、今日もAちゃんのお見舞いに行くんだと言って帰って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る