№137

友人とは小学生の時から一緒で、成長するにつれて性格が合わないなぁと思うことも多々あったんですが、親同士も仲いいし、なんとなく交友が続いていました。大学も二人で示し合わせたわけじゃないけど、同じ地元の大学の違う学部に入学しました。大学って自分でカリキュラムや単位の管理をしないといけないじゃないですか。高校みたいに毎日登校して言われた時間割をこなしていたら授業数は足りるわけじゃなくて。もちろん入学時に学生課から説明があったんですが、友人は人の話を半分くらいしか聞かないので「この授業取らなきゃいけないの?」「教科書どこで買うの?」と、よく周りに助けを求めていました。私は大学に入ってからの友人に苛ついてばかりでした。でも大学では似たもの同士が集まるらしく、友人はゆるく学生生活をおくるグループとつるむようになりました。私もサークル活動やボランティアで忙しく、自分なりに学生生活を楽しんでいました。3年生になって就職活動を始めたころ、友人の親から私の親経由で救援要請がありました。友人はいつの間にか引きこもりになっていました。入学してからほとんど関わってこなかったことも親に説明しましたが、幼なじみのよしみで一度だけと会いに行ってほしいと懇願されしぶしぶ会いに行きました。友人は自分の部屋に引きこもっていましたが、思いのほか元気で「久しぶりだね、懐かしいね」と私が訪問したことを喜んでくれました。でも部屋がすごくて……。壁4面、すっかりお札で埋まっていたんです。ドアも部屋側がびっしりと。どうしたのか聞くと、大学に入って一緒に遊び始めた友達と心霊スポットに行ったときに祟られて、偉い霊能者に言われた通りに部屋に札を貼って身を守っているとか。「しばらく出ちゃいけないんだけど」と笑っているのでいつまでかと聞くと後1年と。馬鹿馬鹿しくなって「絶対詐欺だよ、お金取られてるんじゃないの」と私が思ったままを口にすると友人は「確かにお札は高かったけど祟られているときは本当に大変だった。分かったように言うな」と怒りだし布団に頭から入ってふて寝してしまいました。私ももう帰ろうかと思ったんですが、一体どこのインチキ霊能者か気になってお札を一枚ちぎって持って帰りました。ところがその日の夜、友人から電話がかかってきたんです。「北側の壁の膝丈あたりに貼っていたお札をぬすんだだろう」と。喧嘩していたとはいえ黙って持って行ったのは確かです。すぐに謝って返しに行くと言いましたが、友人は思いっきり私を罵り一方的に電話を切ってしまいました。友人とはそれきりです。失踪したんです。今思うとあのずぼらな友人がすぐに気づくほどあの大量のお札には意味があったんですね。知らずに申し訳ないことをしたと思います。

――炉内さんは謝礼と引き換えにくしゃくしゃになったお札を置いて帰っていった。 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る