№136

父には兄弟がたくさんいました。10人兄弟だと聞いていますが、今は9人です。俺はそれを「若くして亡くなったんだなあ」くらいにしか思っていませんでした。父の実家、つまり父方の祖父母の家は田舎らしい広さで、庭もあり、夏休みや冬休みなんかは20人近い従兄弟が大集合していました。大広間に雑魚寝したり、庭でバーベキューや流しそうめんをしたり、毎年大騒ぎでした。しかしある年、俺たちが家の中でかくれんぼをしていたら、従兄弟のうちの一人がいなくなったんです。たしかその年小学生になったばかりの従妹です。俺はその子が押し入れに隠れるのを見ていました。「こっちだよ」と誰かに誘われて小走りで押し入れに入っていく背中を見たのが最後で、俺はその後すぐ庭に飛び出して縁側の下に潜ったので後は分かりません。ただ母曰く、その押し入れは皆が寝るための布団がパンパンに詰まっていて、子供一人すら入る隙間が無かったそうです。その後、その子の両親と兄弟は帰省しなくなり、他にも帰省の回数を減らした家族もいて、以前のような賑やかさはなくなりました。行方不明事件の次の年、俺が広間で広々と寝ていると夢を見ました。いなくなった従妹と他に数人の知らない子供が手をつないで円になり、祖父母の家の大黒柱の周りをぐるぐる回っているんです。ふと従妹が振り返り俺も一緒にやるかと聞いてきました。断った途端、目が覚めました。そして何故か祖父が俺をのぞき込んでいました。まだ夜中です。「どうしたの」と聞くと「家が子供をほしがるからなぁ」と言って俺の横に寝転びいびきをかき始めました。それが10年前です。祖父は先日他界しました。老衰です。祖母は一人になったので俺の家に一緒に住むことになりました。そして田舎の実家は取り壊すことになりました。俺は思わず「いいのかなぁ」とつぶやくと、父は突然「いいんだよ、あの家は人が消えすぎる」と激昂しました。父はその後すぐ「しまった」という顔をしましたが、それ以上は何も言わず、俺も何も聞けず、家の取り壊しは進みました。そして俺はまたあの家の夢を見ました。父があの大黒柱の下敷きになってもがいているんです。俺は助けようとしましたが重くて動きません。「家、壊しちゃダメだったんだよ」声がした方を見ると、消えた従妹と、昔の夢で一緒に回っていた子供たちがうつろな目で父を見下ろしていました。起きてすぐ俺は慌てて父に電話しました。父はすでに死んでいました。取り壊しの様子を見に行ったのか、いつの間にか工事現場に入り、突然倒れた大黒柱に下敷きになって即死。その後更地になった土地は売ってしまい、今はどうなっているのか分かりません。夢に出てきた子供たち、従妹はもちろん、他の子供たちもどことなく祖父や叔父叔母に似ていました。もしかしたら父の10人目の兄弟も、いや、もっと昔からあの家では子供がいなくなっていたのかもしれません。だとしたら、どうして祖父母の代まで住み続けていたのか不思議ですけど。

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