№116

 伯母が他界したのは2年ほど前です。伯母は夫と死別して、子供も居ませんでした。一人になってからは仕事に打ち込んで、姪である私からはすごくカッコよく見えました。亡くなった後も、たいていのことは生前に済ませてあって、遺言書もしっかり準備されていて、お墓までありました。伯母らしいなぁと皆で感心したものです。病死でしたが、あっという間でほとんど入院などはしていなかったので、家は生活しているようすがそのままにしてありました。私は母と一緒にその片付けをしなければなりませんでした。片付け……という言い方だと伯母が生きていた形跡を消すみたいでいやですね。まぁ、作業自体は同じでしたが、私が伯母にあげた誕生日プレゼントなんかも出てきて涙ぐむ時もありました。その時、私の後ろでパタパタパタと足音がしたんです。振り返っても誰も居ません。その時母と二人きりでしたが、母は別の場所で遺品の整理をしていたので違います。その時は気に留めなかったんですが、その晩、家に帰って夕飯を食べていると母が「掃除中、何度かこっちに来た?」と聞いてきました。母も背後からパタパタと足音を聞いたそうです。私ではありません。私も自分が訊いた足音のことを話しましたが、母は首を傾げました。一緒に食卓を囲んでいた父が「何の話?」と説明を求めてきたので状況を説明したところ、「なんか気味悪いね、でももうあの家に行くことはないから」と話を締めくくりました。しかし次の日、仕事から帰ると父が奇妙な表情をして私と母に聞きました。「足音って、裸足で歩いたような音? 小走りでこっちに向かってくるような?」それはまさに私たちが訊いた足音でした。父は通勤中の駅のホームでそれを聞いて振り返ったそうです。そんな話を友人にしました。友人も次の日、足を向かってくる足音を聞いたと言いました。母はパート先のお茶請け話として話したら、その場にいた全員が次の日には足音を聞いたと。この話を聞いたら、自分に向かってくる裸足らしき足音が聞こえるんです。どんどん話が広まっていって、私は知人から「足音が伝染する」という話を聞きました。その知人はまさか私が噂の発信源とは思わなかったでしょう。でも、また、私は足音を聞くことになったんです。今度は、大勢の「バタバタバタ」って。

――藤西さんが帰った後、一度だけ足音を聞いた。体育館でドッチボールをしているようなやかましい音が響き、一瞬でやんだ。振り返ってももちろん誰も居なかった。

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