№113
――舟木さんは昼夜逆転していた時期があったそうだ。
仕事もなくて、ぼーっとしていましたね。実家から離れて、一人暮らししていたのでとがめる人も居ませんでした。貯蓄は幸いそれなりにしていたんですが、食いつぶしていることに何の危機感もなくて……。気が付いたら昼寝て夜起きて、という生活になっていました。夜って静かなんですよ。そんな時に動画配信サイトを見始めたんですよ。やっていることはテレビとかラジオとそんなに変わらなけど、ちょっと緩いんですよね。それがまあ、いいのかなって。知ってます? ああいうのにも生放送ってあるんですよ。私はそれまで全然関心がなかったから知らなかったんですが。もちろん深夜以降に生放送している人は少なかったです。ですがある配信者が気になって、毎日聞くようになりました。その人はちょっと怖い感じの男性で、ひげが生えて体ががっちりしていて、普通に街を歩いていたら避けて歩きたくなるような見た目でした。しゃべり方もだるそうで、淡々としています。そんな人が30分間「今日の出来事」を語るんです。まるで日記ですね。内容も朝、起きたらメールが入っていて、夜、仕事終わりに友達と飲んだまで。つまらないんですが、声が良いのかな、聞きいっちゃうんですよね。まあ、後には何にも残らないんですが。今考えると不思議なんですよ。原稿とかメモとかなにも見ないでカメラをじっと見て話すんです。あと名前とか言わないんですよね。チャンネル名はローマ字と数字をアトランダムに並べた感じでした。
ある日珍しくニュースのことを話していました。「建築中のマンションの崩壊」とかなんとかいう。ふと寄付してみたんです。えーっと、投げ銭みたいなものかな。本当にちょっとだけ、500円程度。すると今までそう言うのも無視して話していた配信者が止まってこっちを見たんです。今までカメラ目線だったんで、当然こっちを見ていたわけなんですが、上手く言えないんですが、「私を意識した」みたいな。……なんかストーカーの言い分みたいですけど。まあ、私もあれっと思ったものの気のせいかなってすぐ忘れたんですよ。配信者もまた普通に話し始めたし。
次の日、知らないアドレスからメールが来ていました。アドレスに例のチャンネル名が入っていたので、もしかして寄付したら登録しているアドレスが相手に伝わるのかなと、ちょっと焦りつつも開いてみました。すると、やっぱり昨日の御礼と『今日はあなたの話をします』と書いてありました。別に特別変わった内容ではありませんでしたが、私はその日の配信内容を書き留めました。詳しくは長くなりますが「実家から手紙が来た」から始まりました。配信から1か月後、実家から手紙が来ました。内容は、配信された通りで、私は書き留めた通りの行動をしました。まあ、そうして今、こうやって昼間にあなたに会えるような生活になったわけです。あの配信は、たぶん占いだったんですね。え? 今でもたまに配信見ていますよ。でもいくら寄付してももうメールは来ません。たぶん、一生に一度なんじゃないかな。あの占い。
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