№106

――中堂さんは大学生の時に不思議な体験をした。

 当時彼女がいたんですが、無理矢理俺が振る感じで別れたんです。理由は彼女の浮気です。彼女は泣いて縋ってきましたが、その時が3回目だったんです。堪忍袋の緒が切れて、持っていたスペアキーを取り上げて、部屋から叩きだしました。

 彼女とは大学のサークルで出会ったんで、サークル仲間は皆、俺達が付き合っていたことを知っているんです。ただ「浮気された」って話はて誰にも相談してなかったので、俺達は変わらず仲良くやってると思われてました。別れた次の日はさすがにどう皆に説明したらいいのか……浮気してたって言ったらなんか悪口言いふらしてるみたいじゃないですか……滅茶苦茶悩んで結局誰にも言えませんでした。大学の帰りにバイトに行って、帰ったのが9時過ぎだったと思います。アパートで一人暮らしをしていたんですが、電気が付いていたんです。おかしいなぁと鍵を開けて部屋に入った時ぎょっとしました。彼女の靴がそろえてあったんです。スペアキーもう一個作ってやがった!って腹が立って、おい!って怒鳴りながら部屋に入ったんですが、誰も居ないんです。ただ、狭いキッチンに料理が作ってあっていい匂いがしました。彼女の得意料理のシチューでした。この暑いのにシチューかよって、それも腹が立った記憶があります。シチューは熱々で、さっきまで火をかけていたようでした。風呂に入ってるのかと思ってバスルームに行くと、浴槽に湯がはってあって、今まで誰かが使っていたようにバスルームが濡れていました。彼女が置いていった彼女用のシャンプーの匂いが強くしました。いるみたいなんですが、いないんです。靴は残っていて、中にいるはずなんですよ。気持ち悪くってクローゼットの中や天井裏も探しましたがどこにもいません。まあ、嫌がらせに靴を置いていったんだろうってことにして、その日はしっかりチェーンもして寝ました。

 次の日、さすがにサークルの皆に報告しようとサークルに行くと、なんか通夜みたいに暗いんです。俺が無理やり明るく「おととい彼女と別れたんだけど、スペアキーで不法侵入されたわー」って軽く報告したら、女の子がわって泣き出したんですよ。そして先輩が詳しく説明しろって詰め寄ってきたから説明したんです。皆呆然としてるから何かあったのか聞いたら、彼女の実家から大学に昨日彼女が自殺したって連絡があって、事務局からサークルに通達があったそうです。でも、昨日俺の部屋に来てたんですよって言うと、サークルボックスにもさっきまで来てたみたいだって。何のことだか聞いてみると、皆が飲みかけてた紅茶、皆のコップに入れたてが置いてあったらしいんです。彼女の鞄が置いてあったから、来たんだなぁと思って皆紅茶を飲んで待っていたらしいんです。そしたら事務局からのお知らせと、その後に俺の話でじゃあ今飲んだのは何だってパニックになったようです。鞄も靴も事務局から実家に送ってもらいましたが。その後死んだ彼女が痕跡を残すようなことはありませんでしたが、結局彼女は何がしたかったんでしょうか。

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