№104

――輝野さんはいわゆる事故物件に引っ越ししてしまった時の話をしてくれた。

世間知らずだったんだよね。高校卒業して、卒業して、やっと親から離れられるって思って、安くてきれいな所だから即決しちゃった。二度と親に会いたくないからってわざわざ他県に就職したから、土地勘がなかったせいもあるけど、やっぱり人を疑うことを知らなかったんだなって。いい話には裏があるってやつ?

1LDKでベランダもあって、日当たりが良かったんだけど、たまにスーッと暗くなるの。電気がどうのこうのじゃなくて、雲が太陽を隠す感じ。物音もよくした。人の足音みたいなのもあったし、突然ガラスが割れるような音がしてびっくりさせられることもあった。どこかの窓が割れたのかなって調べても何もないの。夜は念仏みたいなのが壁から聞こえてきてめちゃくちゃ気持ち悪い。2階の角部屋だから、その壁の先には誰も居るはずないんだけどね。

あとこれは幽霊じゃないんだけど、隣の部屋に住んでいる男が気持ち悪い。私が出勤するのに合わせて出てくる。部屋に帰るのを窓から見ているのか、入ろうとすると偶然を装って出てくる。なんかニタニタ笑って話しかけてくるの。そいつはなんか定時で帰れる仕事らしくって、私が帰るときには必ず家にいるみたい。休みの日に来て、一緒にご飯食べようって粘られたときは本当に嫌だった。ゆっくり買い物くらい行かせろって。

そんな二重の意味で事故物件に住んでたから、めちゃくちゃ病んじゃって……。そんな時に、職場の先輩が声を掛けてくれたの。女の人でね、いつも穏やかな感じ? だから思わず悩んでること全部ワーってしゃべっちゃった。言い終わるとなんか涙出てきて、先輩が頭なでてくれた。それであなたの部屋に行っていい?って。私は何も考えずにうんってうなずいた。その日は先輩がいたせいか隣の男も出てこなくて、それだけでホントありがたいなって思ってたんだけど、先輩、部屋に入ったとたんすぐにベランダに向かって、あれは何?って指さしたの。それは引っ越ししたときからベランダにあった、名前の分からない木で、大きめの植木鉢に生えてたから、捨てるのもめんどくさいし放置してたんだよね。水もやってないのに普通に枯れないで育ってた。それを言うと先輩が「手伝ってあげるから玄関の外に出そうか」って。あんまり通路にもの出すのはどうかって思うけど、角部屋で誰の迷惑にもならないから良いかって一緒に出したの。それでどうなったと思う? なんか怪奇現象みたいなのがピタッと止まったの! それと隣の男が病んじゃったらしくて、自殺していなくなったの。それから隣にはあんまり人が住み付かなくなって、今も空き部屋。私はまだ同じ部屋に住んでるよ。快適だし、事故物件価格のままで家賃安いしね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る