№97

 小学生の時、課外学習があったんですよ。美術館に絵を見に行くだけですけどね。僕はあんまり興味がなかったからだるかったのを覚えてます。2クラスが順番に時間をあけて絵を見ていくから友達としゃべる時間もなさそうだし。ちなみに僕は先のクラスでした。21人が並んで薄暗い閲覧室に入ると、かしこまったスーツ――燕尾服ってやつです――を着たおじさんがにこにこ笑って立ってたんです。「本日ご案内をさせていただく○○です」って。名前、忘れちゃったんですが。で、僕らは○○さんに付いていったんですが、展示されてる絵がなんかグロくって……覚えてるのが、棺桶からバラバラに覗いている子供の手足、溶けて混ざり合ってる夫婦、あと印象的だったのが生きているのに死んでる女の子の絵。怖かったなぁ涙一杯溜めてる目に光がないんですよ。でも何か言いたげにも見える。僕は退屈な気持ちがふっとんで、おっかなびっくり見入っていたんですが、女子とか泣き出す子もいて、しまいには座り込んでいました。○○さんに「先生どこですか?」って聞いたら「出口にいますよ」って。普通ついてくるもんですよね? それに○○さん、泣こうが踞ろうが、とにかく絵の解説して歩いて行くんですよ。段々しんどくなっていて、気がつけば全員泣いてました。閲覧室も薄暗かったのが、気が付けば絵画を照らすライト以外は真っ暗になっていました。そしてようやく出口の明かりが見えたとき、皆待っていたかのように走り出して、俺も必死で駆けていました。閲覧室を出たら後のクラスがそこにいて、先生たちも驚いた顔をしていました。担任の先生なんか驚きすぎて叫んで泣いて顔がグシャグシャでしたよ。聞いた話だと、僕たちが入ってすぐ次のクラスが入って、僕たちを追い越すことなく出てきたんだとか。担任の先生は閲覧室に入ったと思ったらトイレだったって。

 美術館の場所ですか? 僕、あれから行ってないからうろ覚えだなぁ。確か潰れたとか、潰れてないとか……。正確な時期ですか? うーん。まあ、友達に聞いてみますよ。誰か覚えてるでしょう。大丈夫、あの事件以来、僕たちのクラス、それまで以上に仲良くなってずっと連絡取り合ってるんですよ。あの時僕らの話を信じてくれた先生も。先生は親とか他の先生に責められそうになってたから、クラス一丸になってかばったんですよ。だから先生とも卒業してからもずっと仲良いです。

 ――鹿野さんはそう言って携帯電話に入っているクラス写真だという画像を見せてくれた。

 ――そこには鹿野さんしか映っていなかった。

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