№24

――根津さんは詳しい住所を教えてくれたがここでは伏せておく。

 大学に入って一人暮らしをすることになりました。といっても大学生専用のマンションなので住人は当時全員同じ大学生で寮のようなところでした。明るい雰囲気のマンションで設備もよかったし、大家さんも住んでいる先輩方もとても親切でした。その年は私含めて10人ほどの入居者がいました。そこで大家さんが率先して歓迎会を開いてくれました。その時にこんな話を聞きました。「必ず白い着物を着た女の子が訪ねてくるから、無視しなさい」と。私は怪談が苦手で耳をふさぎそうになりました。「無視しなかったらどうなるんですか?」と同級生の男子が訊きました。さぞ恐ろしい続きがあるのだろうと思ったのですが先輩たちは首を傾げて「さあ?」「部屋にいれなければいいのよ」「しゃべりかけても返事しないらしいよ」とあいまいです。それぞれの話をまとめると「白い着物の女の子は来るが、家に入ろうとするわけではなく、無視してれば消える」ということでした。「あんまり怖くありませんね」と私が正直な感想を言うと先輩は「そうよ~、来るのも年に1回くらいだし」と笑っていました。別に私たちを怖がらせるために言ったことではなく、単にごみの収集日を伝える感覚だったようです。

 私は半信半疑でしたが、入学して1か月くらいで同級生の一人の部屋に女の子が現れたそうです。「本当に白い着物来てドアの前に立ってた。誰って聞いても答えないから無視してたらいつの間にかいなくなってた」と。そして1年経つうちにちらほらと他の同級生も体験したと聞き、私は徐々に慣れてきました

 ある日大学に忘れ物をして帰るのが遅くなったとき、私は白い着物の女の子を遠目に見ました。マンションの前から見上げると2階のある部屋の前に立っていたのです。それは同級生の男子の部屋でした。怖くはなかったのですが、何といえばいいのか、嫌なものを見たというか、変な不快感はありました。女の子は扉に向かって立っていたので私は背中を、マンションに入る前に消えてくれないかとじっと見ていました。そのとき同級生がドアを開けて出てきました。そして女の子の肩を抱いて部屋に連れ込んだんです。私には気づいていないようでした。私も最初は意味がわからず立ち止まらずぼんやりとしていました。意味が分かったのは彼が殺されてからです。体中をずたずたに切り裂かれて死んでいたそうです。犯人はいまだに捕まっていませんが、ちらっとニュースで児童ポルノなどの所持が臭わされました。彼が死んでから大学でもそのような噂が流れてました。

 連れ込むのが人間じゃないなら許されると思ったんでしょうか。私にはわかりません。私は訪問がある前に引っ越ししたのですが、今でも女の子は来るそうですよ。

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