№14

――瀬田と名乗ったその女性は、ひどく青白かったが、どこかで見た顔をしていた。

 ……ええ、そうです。瀬田は本名です。あなたが知っているのは芸名です。本当はこんなところ来たくないんです。変な噂が立つと私という女優のイメージに傷がつくんで。でも事務所の社長が言って来いって。本当に他言無用ですよ?

 私の出身はもう市町村合併でなくなったとある村です。山に囲まれていましたが気候がよく広かったのでそれなりに人はいました。そんな田舎で私は飛びぬけて容姿が整っていました。図々しいと思いますか? でも事実ですから。ただ当時からあの村でだけの話だとわかっていました。高校は村の外にありましたし。しかし、私が村一番だと思っていたのは私だけでした。……ある井戸にとても美しい女神がいるという伝承があったんです。村の人たちはそろって、女神様よりも美しいものはないと言い、私は見えない美貌に負けたのかと複雑な気分でした。その井戸は枯れていましたが、水がはると女神が現れるとか願いが叶うとか言われていましたね。

 私はこんな訳の分からない伝承を信じる村の人たちが嫌いで、高校を出たら東京に行こうと思っていました。でも両親は納得してくれなくて……ある日、井戸の近くで泣いていたら水が湧く音がしました。まさかと思いましたが井戸の中をのぞいてみると、そこが見えそうなくらい透き通った水がぽこぽことまさにその時湧いていたのです。……願い事したと思いましたか? そんなことしませんよ。女神なんて私は信じてなかったし。ただ伝承の一部が本当なのが気に入らなくて、私は井戸に石やら土やら投げ入れてやりました。

 それがきっかけかわかりませんが、その村は急激に衰退していきました。人が良く死んだり、作物が育たなかったり……。私の家は結局それが理由で東京ではありませんが都会に引っ越しました。あれから20年たちます。先日とある心霊番組の企画でいくつか心霊スポットを巡ることになりました。そうです、廃村になったあそこに行くことになったのです。私はその時もまだ女神や祟りを信じていなかったので、知らないふりをしてロケに参加しました。途中から私はひどく気分が悪くなり、ロケバスに戻って休憩していました。そこに同伴してくださった霊能者のお婆さんが入ってきて私に言ったのです。「あんた、女神様になにしたの?」って。その村には何も残っていなかったのです。井戸どころか、人も、人が伝えるお話しも。それなのに霊能者の人は知っていました。私はあれからずっと体調不良で休業中です。私が村を出てから、村に何があったんでしょうか? なんで今更私が呪われているんでしょうか? あなたが収集した怪談の中にそれらしいものは今までなかったでしょうか? お願いします! 教えてください!

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