№13
――須藤さんは来訪してからなかなか話し出さなかったが、何度か促すとおずおずと話し始めた。
小さい子供には、霊が見えるといいますよね。……私には娘が一人います。娘もまた見える子供でした。夫は子供の妄想か錯覚だと思っていたようです。しかし私はたとえ本当に見えていても、妄想でも、「おうちの上に人がいる」だの「ワンワンが浮いてる」なんて言う娘が可愛くて、次は何が見える? 今日は何か見えた? と、よく聞いていました。
娘が6歳の時、唐突に「おうちの中に誰か入ってきた」と言いだしました。もちろん玄関は閉まっていたので、私はまたアレかと思いました。その頃になると何か変ったものが見えたという話題はあまり娘の口からきくことはなくなっていましたが、それでも突然言い出したりしました。私はそれが始まると次は何を言いだすのかと少しワクワクして娘の横に座ります。
「誰が入ってきたの?」「黒い子」「黒? 肌が黒いの?」
娘はうーんと首を傾げました。そこで私は質問を変えます。
「どうやって入ってきたの?」「すってドア開けないで入ってきた」
娘はいつも通り私の質問に詳しく答えてくれます。
「その子は今どこにいるの?」「そこ」
娘はリビングの入り口を指しました。もちろんそこには誰も居ません。観葉植物が置いてあるだけです。
その時観葉植物の葉がさわさわと動きました。驚いて娘を見ると娘も目を丸くしてそちらを見ています。
「その子は何してるの?」
私が聞いても娘は答えません。呆然と同じところを見つめています。私は焦って娘の肩をつかんで揺すりました。すると娘は見開いた眼を私に向けて言いました。
「なんにもないよ」
そしてふっと笑ったのです。……言葉にするのは難しいんですが、それは娘ではなかった。娘はそんなこと言わないしそんな表情もしない。つまり何かに憑かれたのではと
――そこで部屋のドアが開き、小学生くらいの女の子がひょこんと顔をのぞかせた。
――ママ、来てますか?
――私は聞き返していた須藤さんの音声を止めて、知らないよと答えた。少女は顔をしかめ舌打ちをしてドアを閉めた。その顔立ちは須藤さんによく似ていた。
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